バスクララ

Open App

 男は星に手を伸ばす。届かないと知りながら。
 それでも男は満足げに微笑み、大きく頷く。
「うんうん。星を掴むなんてやっぱり無理だな!」
 誰に聞かせるわけでもなく大きな声で男は言い、とある一つの星を指差す。
「だが見てろよ! いつか俺は星を掴む男になる!
その時まで誰にも取られるんじゃねえぞ!」
 男はニッと楽しそうに口角を上げ、数秒静止する。
 そして後ろを振り向き「ちゃんと撮れたか!?」とスマホを持った女に声をかけた。
「撮れてますよー。なんなら確認してみてくださーい」
 男が今しがた撮った動画を再生し、その出来映えに破顔する。
「……よし、カッコよく撮れてるな。
セリフもポーズも考えて考えて考え抜いた甲斐があったぜ」
 今にも鼻歌でも歌い出しそうなくらいご満悦な顔をしている男に女がため息混じりに声をかける。
「……それよりもセンパイ。こんなちゃっちい手づくりの星空で良かったんですかー?
本物の星空の下でやる方がカッコいいと思うんですけどー?」
「そりゃあ俺だって本物がいいに決まってるさ。
だけどほら、俺もお前のスマホもあんまカメラの性能良くないだろ?
それだと綺麗に撮れねえんだよ星が。
この作品は星がメインなんだからな!」
「へー、そうなんですねー」
 腰に両手を当てて胸を張る男に女は生返事をする。
 その態度に男は少し不服そうな顔をしたがすぐさまなんでもないような顔をした。
「……まあいい。それよりも次のカットいくぞ!」
「あーい」
 二人の自主制作映画はまだ始まったばかりだ。
 それがどんな作品になるのかは、男にしかわからない。

4/5/2026, 1:44:10 PM