ある日、手紙が届いた。
宛先は私。差出人も……私。
自分自身への手紙? そんなサービス利用したことないよ。しかも消印ミスって10年後になってるじゃん。と思いながら封を開ける。
シンプルながらも可愛らしい青を基調とした便箋に私の字が書き連ねられていた……
『突然のお手紙すみません。きっとものすごくびっくり……いや、半信半疑になってると思います。
出した覚えのない手紙、しかも消印は10年後……
本当にこれは本物なのか? と思っていることでしょう。
まあズバリ、本物です。
10年前だと……〇〇くんを推してた頃ですね。アニメは□□が流行っていて、ゲームは△△が発売された頃でしょう。
これからあなたに起こる出来事を書けばより信じて貰えそうですが、それが原因で未来が変わってしまったらいけないので書けません。なんてこったい/(^o^)\
まあそれは置いといて。未来のことを書きますね。
私はとても幸せです。
それしか書けないのですけどね!』
……なんだかすごくフワッとした内容の手紙だったな。
この内容なら今の私でも書けそう。
……まあでもせっかくの10年後の私から届いた手紙だし、大切に保管してみよう。
10年後は幸せが確約されているから私の人生、明るいぞ!
2月14日……すなわち、バレンタインデー。
この日に良い思い出がある人もない人も、きっと何かしらでチョコを食べたり買ったり作ったりしたこともあるだろう。
学生の時はあんなにも頑張って友チョコやら家族チョコやらを作ったりしていたのに、今となってはキット◯ットを家族にあげるだけになってしまった。
当時チョコをあげていた友は一人を除いて音信不通だし、今とても仲良くしている友はあまり頻繁に会わない。
職場の人にあげようにもお土産以外の食品を持ってくることは基本禁止されている。
というか職場の人に手作りのものを振る舞うとか、そんな気力もない。
そもそもチョコ作りは学生の時分だからこそ楽しいものだったり凝ったりしていたのだろうか。
だが、大人になってもお菓子作りやラッピングを作るのが好きという人もいるし、学生でもそもそも作るのがめんどくさいという人もいるはずだ。
……結局は人によるという結論になってしまうか。
『待っててね』……そう言ったのに君はどんどん先へ進んでしまうんだね。
昔は君と二人で勉強も運動も競い合っていたのに、僕が少し躓いてる間に君は先へ先へと行ってしまった。
どんなに後ろから待って待ってと追いかけても、君は振り返ることなくついには頂点へと辿り着いてしまった。
僕は君の遥か下。とても惨めだった。
勉強も出来て運動も出来る人を周りの人間が放っておくわけがない。
だから君の周りにはいつも人だかりが出来ていた。
たまたま廊下ですれ違った時、君は僕に一瞥もせずに『頑張れ』なんて無責任な言葉だけを吐いて人の輪の中へ入って行った。
……もう僕は君を追いかけない。
だから君も待たなくていい。
さようなら。かつて友達だった人。
大好きだったよ。
「なあ君。もしも……もしもだぞ?
私がこの世から消え去ってしまったら……君は悲しんでくれるか?」
文芸部で図書室から借りた本を読んでいると先輩がそう言ってきた。
先輩は窓の外を見ていてその表情は窺い知れない。
だから私も本に目を落としてから答える。
「何言ってるんですか。悲しむに決まってますよ」
「……ありがとう」
「いきなり何ですか? 死亡フラグでも立ててるつもりですか」
「死ぬつもりはさらさらないさ。まだやりたいことが沢山あるからな。
……そうだ、君。初恋の相手は覚えているか?」
まさかの方向に話が飛び、私は先輩の方を見る。
先輩はゆっくりと私のほうを向き、眉を下げて答えた。
「私は忘れてしまったよ。いつどんな人を好きになったかなんてな。
初恋をしたことは覚えているんだ。でもその相手はわからない。
そしてなんとなく思うんだ。その人はもうどこにもいないと。
伝えたかったことはあるとは思うのだが、それもよくわからない。
ただ、胸にトゲが刺さっているような気がするんだ。
……おかしいと思うだろう?」
少し泣きそうな顔をしてから先輩が無理やり笑顔を作る。
私はそんな先輩の顔を見たくなくてたまらず先輩の両手を握った。
「伝えましょう。今!
その相手に届くように、思いの丈を全部!」
「君、何を言って……」
「失恋なのか成就したのかは知りませんが、その思いは心の中で燻ぶらせていたらダメです!
伝えたい気持ちがあるならここで叫んじゃいましょう!
なんなら私も叫びますから!」
先輩はポカンと口を開けていたけど、プッと吹き出してから大笑いをした。
「ははは! 君は中々に面白いな! さすが私の後輩だ!
ああ、そうだな。叫んでしまおう。トゲが抜けるように!」
先輩はスゥと息を吸って思い切り叫ぶ。
「好きだ! ずっとずっと大好きだ! だから側にいてくれ!」
思いの籠った真っ直ぐな言葉。
その言葉は私に向けてのものじゃないのはわかっている。
だけど、あまりにも真っ直ぐだったからつい錯覚してしまって、思わず頷いてしまった。
「……君に向けたわけではないのだが?」
「……不可抗力ですよ」
なんとなく気恥ずかしくて手を離しそっぽを向く。
すると耳元で「みどり」と優しく囁かれた。
「ありがとう。君が後輩で本当に良かった。
これからもよろしく頼むよ」
「……もう! 仕方ないですね!」
「ははっ! さて、久々に文芸部らしいことをしてみるか!
君も手伝ってくれるよな?」
先輩が自信満々に笑って私を見る。
私も嬉しくなって自然と口角が上がる。
そして、私たちのこの一連の会話を覗き見ていた人がいて『文芸部の二人はデキている』という噂が流れるのはまた別の話……
【いつか見た花 10/10】
「大昔にさあ、僕はこの世界を創ったわけ。
だけど一回壊されちゃってさ。壊した奴に途方もない時間をかけて創り直させたんだ。
そしたら世界がちょっと不安定になってね。これまではどうにかこうにか出来たんだけど、さすがにもう無理になっちゃってね。
ひじょーに心苦しいけどとても強い力を持っている命を使ってこの世界の柱として据えなきゃいけなかったんだ」
「……それで選ばれたのが私というわけか」
「そうなっちゃうね。でも、こんな体験生きてちゃ絶対に出来なかったよ?
この場所で創造神と二人で語り合うなんてさ!
あはっ、とっても得難い体験でしょ?
だから選ばれたのも悪くなかったでしょ〜?」
「……別に、こんな体験どうでもいいが」
「うわ辛辣〜。まあその答えが人間らしいけどね。
自分勝手で他者のこと全く考えないで迷惑かけてばっかり。そのくせ自分が同じことされたらやってたことを棚に上げて怒る……
全くもう、人間ってばなんて面白いんだろうね!
見ていて本っ当に飽きないよ!」
「……お前みたいなのが神だから、人間もそうなるのではないか?」
「蛙の子は蛙ってことかい? あはははっ! 凄いこと言うねえ!
ま、いいけどね。そう思ってても。たぶん嘘じゃないかもだし。
しかしまあ何とか記憶の修正が間に合って良かったよ。あのまま思い出されてたらまた誰かが芋づる式に思い出すところだったからね。あー、危なかった」
「なぜ?」
「だってしょうがないじゃん。いない人を覚えててもさ。
思い出した人が近くにいたら触発されてほんの小さな違和感が忘れられずに思い出そうと頑張っちゃうじゃん。今回の彼女や君のお友達みたいにさ。
もういないのに、もう会えないのに思い出だけ残ってるなんてとても辛いし最悪じゃん?
だから記憶を改変するんだ。僕なりのアフターケアってやつだよ。僕ってばちょー優し〜!」
「……私には理解できない考えだ」
「ふーん? そういうものか」
【いつか見た花 9/10】