「なあ君。もしも……もしもだぞ?
私がこの世から消え去ってしまったら……君は悲しんでくれるか?」
文芸部で図書室から借りた本を読んでいると先輩がそう言ってきた。
先輩は窓の外を見ていてその表情は窺い知れない。
だから私も本に目を落としてから答える。
「何言ってるんですか。悲しむに決まってますよ」
「……ありがとう」
「いきなり何ですか? 死亡フラグでも立ててるつもりですか」
「死ぬつもりはさらさらないさ。まだやりたいことが沢山あるからな。
……そうだ、君。初恋の相手は覚えているか?」
まさかの方向に話が飛び、私は先輩の方を見る。
先輩はゆっくりと私のほうを向き、眉を下げて答えた。
「私は忘れてしまったよ。いつどんな人を好きになったかなんてな。
初恋をしたことは覚えているんだ。でもその相手はわからない。
そしてなんとなく思うんだ。その人はもうどこにもいないと。
伝えたかったことはあるとは思うのだが、それもよくわからない。
ただ、胸にトゲが刺さっているような気がするんだ。
……おかしいと思うだろう?」
少し泣きそうな顔をしてから先輩が無理やり笑顔を作る。
私はそんな先輩の顔を見たくなくてたまらず先輩の両手を握った。
「伝えましょう。今!
その相手に届くように、思いの丈を全部!」
「君、何を言って……」
「失恋なのか成就したのかは知りませんが、その思いは心の中で燻ぶらせていたらダメです!
伝えたい気持ちがあるならここで叫んじゃいましょう!
なんなら私も叫びますから!」
先輩はポカンと口を開けていたけど、プッと吹き出してから大笑いをした。
「ははは! 君は中々に面白いな! さすが私の後輩だ!
ああ、そうだな。叫んでしまおう。トゲが抜けるように!」
先輩はスゥと息を吸って思い切り叫ぶ。
「好きだ! ずっとずっと大好きだ! だから側にいてくれ!」
思いの籠った真っ直ぐな言葉。
その言葉は私に向けてのものじゃないのはわかっている。
だけど、あまりにも真っ直ぐだったからつい錯覚してしまって、思わず頷いてしまった。
「……君に向けたわけではないのだが?」
「……不可抗力ですよ」
なんとなく気恥ずかしくて手を離しそっぽを向く。
すると耳元で「みどり」と優しく囁かれた。
「ありがとう。君が後輩で本当に良かった。
これからもよろしく頼むよ」
「……もう! 仕方ないですね!」
「ははっ! さて、久々に文芸部らしいことをしてみるか!
君も手伝ってくれるよな?」
先輩が自信満々に笑って私を見る。
私も嬉しくなって自然と口角が上がる。
そして、私たちのこの一連の会話を覗き見ていた人がいて『文芸部の二人はデキている』という噂が流れるのはまた別の話……
§
(これにて数日続いていたシリーズはひとまずおしまいです。
読んでくださりありがとうございました。
後日タイトルを追加し、この()内の文を削除します。
またしれっとシリーズものを書くかと思いますが、その時もそっと見守ってやってください)
2/12/2026, 3:19:52 PM