ほれぼれするほど美しく、透き通った歌。
船上に響き渡るその歌声はまさしく海の魔女と呼ぶにふさわしい。
皆の視線を釘付けにしている彼女は、人間ではない。
体つきこそ人間そっくりだが、背中から生えている色とりどりの花でできた羽根、猛禽類のような足……
そう、彼女はいわゆるセイレーンなのだ。
しかしこんな言い伝え……というか事実がある。
セイレーンが歌を歌うと船員は心を奪われ、瞬く間に船が沈んでしまうという事実が……
先ほど記したように、ここは船上だ。ならばなぜ彼女は歌っているのか?
その理由は……愛に生きるケンタウロスが彼女をほとんど無理やり連れ去って船に乗せ、しかもその船が海賊船でケンタウロスが捕まってしまい、助けるために仕方なく歌ったところ船員も船も大変な目に遭いかけて、騒ぎを知った船長が「俺様の気力で浮いてる船がセイレーンの歌で沈むわけねぇ!」と啖呵を切ったから……だ。
……わけがわからないと思うが、事実だ。
一応セイレーンは最後まで歌うのを躊躇していたことは明言しておこう……
そして僕はセイレーンとケンタウロスを追いかけてきただけの旅人。
なんだか凄いことに巻き込まれたが、まあこれも旅の醍醐味だ。
これで船が沈んで僕が海のもくずとなったとしても、最後にエレ、君が紡ぐ歌を間近で聴けて嬉しかったよ。
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元ネタは『聖剣◯説Legend Of Mana』より【ギルバート・愛の航海】です。
幼い頃は「ふーん」と思っていたセリフも今見たら中々深いことを言っていたりして発見が楽しいです。
一部ちょっと端折ったりセリフをほんの少し変更しているので、原文や話の流れが知りたい方は良かったらぜひ調べたり遊んだりしてみてください。
霧のせいで周りに何があるのか見えない。だけど光はわかる。
光の下に行きたいのに、何かにつまずいたり何かにぶつかったりと思うようにいかない。
霧が晴れれば道なんてすぐわかるはずだけど、晴れる気配は一向にない。そもそも晴れるかどうかすらわからない。
本当に光の元へ辿り着けるのか、疑問に思ったことも何度もある。
だけど私はもがいている。光と霧の狭間で。
もがいて足掻いて突き進んだその先に、光が優しく私を照らしてくれることを信じている。
静寂な部屋で耳を澄ませないと聞こえない砂時計の音。
さらさら、さらさらと絶え間なく砂が落ちていく。
砂が落ちきったらひっくり返してまた砂が落ちていく。
子どもの頃ただぼーっと砂が落ちる様子を見ていたような気もする。
そして今はオイル時計(オイルタイマー)をぼーっと眺めている。
今も昔もそんなに変わってないんだな。
いつ、どんな時に貰ったかさっぱり忘れてしまった星図が小学校と中学校の卒アルの間から出てきた。
というわけでせっかくだから星図を持って天体観測をしよう! と思い至り、いそいそとベランダに出た。
だけど本日は曇り空。星どころか月までもぼんやりしか見えない。
じゃあまた今度にするかー、と部屋の中に入ろうとしたその時、突如強風が吹いて持っていた星図を掻っ攫っていった。
数秒、何が起こったのかわからなかったけど、事態を理解して「マジか……」と頭を抱えた。
闇夜に消えた星図には名前がばっちり書いてある。
それだけじゃない。何年何組までもしっかりと書いてあるのだ。
……変なところに落ちてなければいいけど。
そう思ってた次の日、二軒隣りの人から「これ、貴方の?」と星図を渡された。
どうやら庭に落っこちていたらしい。
そしてなぜわかったのかを訊くと、少し珍しい名字だからきっとそうだろうと思ったとのこと。
若干レア名字で良かった〜……のか?
クイズではない。暗号でもない。
だけど私を悩ませる数式(?)がある。
それが『愛 − 恋 =?』だ。
愛から恋を引いたら何になるのか。皆目見当もつかない。
音楽室の机の隅にこそっと書かれていた誰かのいたずら書き。なのにどうして私はこんなにも悩んでいるのだろう?
下校途中も、お風呂に入っている時も、寝る直前も、ふと気がつけばその答えを模索している。
いや、答えなんてないのかもしれない。愛も恋もこれだ! という定義なんてないのだから。
ということは答えは解無しになるのかな。
それはそれで寂しい思いもあるけど。
次の週、少しドキドキしながら音楽室の机の隅を見ると、?の部分が『真心』に書き換わっていた。
なるほど! と思う自分と、うーん……? と思う自分の両方がいる。
……だけど私じゃ辿り着けなかった答えだ。
だからとりあえず真心の近くに花丸を描いて矢印を伸ばしておいた。