うぅ……私のスマホどこいったんだろう……
さっきまでそこにあったのに。スマホがないと出かけられないよお……
どこに置いたんだろ……タイムマシンがあったら数分前に戻って自分に知らせるのに……
というか、こんだけ探しても見つからないなんて……
まさか、ソファの下に潜り込んでるとか!?
……ほぼ真っ暗で何も見えない。
仕方ない、スマホの灯りで……って、え?
……ここにあるじゃん……手に持ってるじゃん……
なんで今まで気づかなかったんだろう?
メガネをかけてるのにメガネを探す人の気持ちが意図せずちょっとわかってしまったぞ……
はあ……まあいいや。来月友達に会った時の話のタネにしようっと。
それがあるあるだったとしても、あるあるなりに少しは盛り上がるでしょ。
実は私には一度やってみたかった夢がある。
まず大きなタライを用意して、そこに水をなみなみと注ぐ。
次にトマト、きゅうり、おナスにスイカ、ついでにピーマンも投入。もちろん生のまま。
そこによく冷やすための氷も入れちゃえ〜。
よし、これで冷やし夏野菜タライの完成!
タライのすぐ側に折りたたみイスを設置して、そこに腰掛けつつ足をちゃぷんとつけると……
うぅ〜〜っ! 冷たくて気持ち〜〜〜っ!!
昔、テレビかアニメか何かでそれをやってるのを見てやりたい! って思ったことがあったんだよね〜。
こういうのって大人になっても楽しいもんなんだね。友達にオススメしちゃおーっと。
水を足でじゃぶじゃぶバチャンバチャンするの冷たくて楽しいってすぐわかってもらえるはずだもの。
あー、次の夏は波打ち際に素足のままで誰かとキャッキャうふふできたらいいなあ。
絶対楽しいよ。だってこれでもすごく楽しいもの!
……あら、水がぬるくなってきた。さすがにこの灼熱炎天下じゃ厳しいものがあるねえ。
もっともっと楽しみたいけど、このままここにいたらお空の住人になっちゃう。
意味は違うかもしれないけど、ひと夏の儚い夢を体験できたから良しとしましょうか。
辛い。苦しい。やめたい。終わりが見えない。もがいてももがいても遠のくばかりだ。
いつになれば終わる? どうすれば終わる?
答えなんてわからない。どこにあるのかもわからない。
俺はあの日に帰りたいだけなのに!
俺のしていることに意味はあるのか? ただ無意味に時間を浪費しているだけではないのか?
……もう、もう、疲れた。
いっそのこと全てを投げ出して大暴れしてめちゃくちゃにして今までやってきたことを全部壊してしまおうか。
「大丈夫。いつかきっとなんとかなる!」
落ち込んでいる俺にあいつはいつもの屈託のない笑顔でそう励ます。
……ああ、まただ。こいつは弱音なんか吐かない。本気でいつかきっとなんとかなると思っているのだろう。
だがそれはいつだ? いつなんとかなると言うんだ?
俺は今すぐにでも帰りたいんだ! お前なんかと違ってな!
……そうぶちまけたい衝動に駆られるが必死に我慢する。
まだ仲違いをしてはいけない。こいつの力がなければ過去に戻る錬金物は作れないのだから。
……だが、俺の中に巣食う焦りや怒りは確実に俺の心を蝕んでいった。
だから、ある日、ついに……手を汚してしまった。
錬金素材のためだった。あれがなければ錬金は完成しないとわかっていたから。
それを知ったあいつは……案の定と言うべきか、ショックを受けていた。
だが……もう後戻りなどできない。
作らなければ俺が次何をしでかすかわからない。そんな思いであいつは研究を続けているのだろう。
つくづくお人好しなやつだ。
……そう思ってしまう俺はもう、破滅への道を順調に歩いてしまっているのだろう。
あともう一歩だけ、もう一歩だけと思っていても自力で止められはしない。
……あいつならば、止めてくれただろうか。
いや……そもそもお互いのことをもっとよく知っていればこんなことにはならなかったのだろうか?
……たらればを考えても詮無いことだ。なのにどうしても考えてしまう……
ああ……誰か、助けてくれ。俺を止めてくれ……
§
ドラ◯エ10のver4に出てくる某キャラが元ネタ(?)です。
ドラ◯エ10の無料体験版の範囲がver4.4まで拡大されるので、よかったらぜひ遊んでみてください。
思えば遠くまで来たものだ。と見知らぬ街に来たら毎回思う。
まだ見ぬ景色を求めてさすらいの旅をしている俺だが、果たしてこの旅に終わりは訪れるのだろうか……?
ふとそんなことを思ってしまった自分に年を取ったなと苦笑する。
生涯現役な旅人でありたいものだが、おそらくそれは難しい。
だからいつかどこかの街で骨を埋めることになるのだろう。
故郷じゃない、ここみたいな見知らぬ街で。
だが寂しさは感じない。
俺の人生はほぼ根無し草のようなものだったし、故郷に未練などない。
……だが、俺はそれで満足か?
街でのほほんと終わりを待つだけの最期でいいのか?
……いや違う。
やはり旅こそが俺の人生であり、生き甲斐と言っても過言ではないから終わりまで旅をしよう。
それで道端で野垂れ死ぬことになったとしてもきっと後悔はない。
それこそが俺らしい最期だろうから。
ソファにもたれなから本を読んでいると、遠くでゴロゴロと雷の音が聞こえた。
こういうのって遠雷と言うんだっけと思っていると、近くにいた姉ちゃんが「ひっ」と短い悲鳴を上げた。
姉ちゃんは昔、近くで雷が落ちた瞬間を目撃してから雷がダメになったらしい。
姉ちゃんはすたすたと部屋から出て廊下のど真ん中、いつもの定位置に座り込む。
そして耳を塞ぎ、顔を膝の間に埋めた。これもいつもの体勢だ。
遠雷程度ならこれで乗り切れるみたいだけど、ゲリラ雷雨になってくると猛ダッシュで寝室へと行き押し入れの中で布団の中に隠れる。
かなり暑いらしく、雷が止んだことを伝えに行くといつも汗だくになっているけど。
僕はそこまで雷に恐怖心は抱いてないけど、姉ちゃんにとってはかなり恐ろしい存在なんだろうと思う。
……でも姉ちゃん、静電気は平気なんだよなあ……
姉ちゃん的にはどうなんだろうと思わなくともないけど、それを聞いてしまったらうだうだ長々と理屈をこねられそうな気がする……
藪をつついて蛇を出すようなことはやめておこう。
僕はそう思い直して本の世界へと戻っていった。