思えば遠くまで来たものだ。と見知らぬ街に来たら毎回思う。
まだ見ぬ景色を求めてさすらいの旅をしている俺だが、果たしてこの旅に終わりは訪れるのだろうか……?
ふとそんなことを思ってしまった自分に年を取ったなと苦笑する。
生涯現役な旅人でありたいものだが、おそらくそれは難しい。
だからいつかどこかの街で骨を埋めることになるのだろう。
故郷じゃない、ここみたいな見知らぬ街で。
だが寂しさは感じない。
俺の人生はほぼ根無し草のようなものだったし、故郷に未練などない。
……だが、俺はそれで満足か?
街でのほほんと終わりを待つだけの最期でいいのか?
……いや違う。
やはり旅こそが俺の人生であり、生き甲斐と言っても過言ではないから終わりまで旅をしよう。
それで道端で野垂れ死ぬことになったとしてもきっと後悔はない。
それこそが俺らしい最期だろうから。
ソファにもたれなから本を読んでいると、遠くでゴロゴロと雷の音が聞こえた。
こういうのって遠雷と言うんだっけと思っていると、近くにいた姉ちゃんが「ひっ」と短い悲鳴を上げた。
姉ちゃんは昔、近くで雷が落ちた瞬間を目撃してから雷がダメになったらしい。
姉ちゃんはすたすたと部屋から出て廊下のど真ん中、いつもの定位置に座り込む。
そして耳を塞ぎ、顔を膝の間に埋めた。これもいつもの体勢だ。
遠雷程度ならこれで乗り切れるみたいだけど、ゲリラ雷雨になってくると猛ダッシュで寝室へと行き押し入れの中で布団の中に隠れる。
かなり暑いらしく、雷が止んだことを伝えに行くといつも汗だくになっているけど。
僕はそこまで雷に恐怖心は抱いてないけど、姉ちゃんにとってはかなり恐ろしい存在なんだろうと思う。
……でも姉ちゃん、静電気は平気なんだよなあ……
姉ちゃん的にはどうなんだろうと思わなくともないけど、それを聞いてしまったらうだうだ長々と理屈をこねられそうな気がする……
藪をつついて蛇を出すようなことはやめておこう。
僕はそう思い直して本の世界へと戻っていった。
Midnight Blue……直訳すれば真夜中の青。
その色は暗い青色であり、真夜中を思わせる深い色。
明かりの乏しい真夜中の空は果たしてこの色をしているのだろうか?
そうであってもそうでなくても、この色は真夜中の青であり続けるのだろう。
語り続ける人がいる限り。
一人だと寂しいけど、君と一緒なら平気なんだ。
君と僕は強い絆で結ばれているから何も言わなくても心で通じ合ってる。
ほら、君もとても期待に満ちたキラキラした目をしてる。
大好きな君。君と飛び立つ今日この日をずっと待ってたんだ。
高いところから飛んでどこまでも行こう。
そして空の果てをこの目で見るんだ!
自分なりに真面目にやったつもりだった。だけど思うような結果が出なかった。
落ち込んでいる俺に友が慰めの言葉をかける。
「一生懸命何かに打ち込んだことや、一生懸命努力したこと。
それがどのような結果になっても、得た知識や経験はおそらくたぶんきっと忘れないはずだよ」
……なぜ最後をあやふやにしたんだろう。それさえなければ良い言葉だと思うのに。
「……なんで断言しないんだ?」
「ふとした時に忘れちゃうかもしれないじゃん。記憶喪失とかで。
未来なんて誰にもわかんないんだからさ。
だから僕はそういう言葉を言わないようにしているんだ。
断言してほしかったら言い直すけど?」
ほとんど表情を変えずにそう返す友に俺は何だか笑いが込み上げてきた。
そして笑顔のまま俺はこう答える。
「いや、そのままでいい。その方がお前らしいからな。
俺、今日のことおそらくたぶんきっと忘れないよ」
友は少し驚いたような顔をしたがすぐにゆるく微笑んだ。
「うん。それでいいよ」
忘れなくてもいい。忘れても構わない。
そういうスタンスもたまにはいいかもしれないと友を見て思った。