ひたひた、ぺたぺた。時々どすどす。
廊下を歩く足音をよく聞いてみるとなんだか面白い。
とことこ、てくてく、どたばた、てちてち……
足音だけでこんなにもオノマトペがあるのもすごいけど、一つ一つ歩き方などが違うと認識できる私たちもすごいと思う。
足音だけでもいろんな音があると気づいた人も、それを言葉に残した人もすごい。
みんなすごいんだ。
やあやあ、ここで会えたのも何かの縁。ちょーっと話を聞いていかないかい?
……忙しいからまた今度って? まあまあ、そんな事言わずにさ、話半分で聞いてくれていいから!
……少し前のこと、夏休みを利用して田舎に遊びに行ってた男の子がいてね。
八月一日から三十一日までの期間、そこで虫とりや魚つりに田舎に住む子どもたちと楽しく遊んだのさ。
楽しい時間はあっという間に過ぎて、ついに八月三十一日になった。
明日には帰らなければならない。だけど、帰りたくない。
男の子は思った。毎日書いてる絵日記に昨日と同じことを書いたら明日は今日になるのでは……つまり明日なんてやってこないのでは……とね。
男の子は早速絵日記に昨日と同じことを書いた。
『今日はなんにもないすばらしい一日だった』と。
そして次の日、男の子は日付を見て驚愕した。
そこには八月三十二日と書かれていたからだ。
そして男の子は気づいた。周りが静かすぎることに。セミの声もテレビの音も人の声すらも聞こえない。
ただ風の音と川のせせらぎが聞こえるだけだ。
ハッとなって男の子は絵日記を開く。そしてそこに書いてあったものを見て男の子は恐怖におののいた。
そこには自身が描いた覚えのないぐちゃぐちゃな絵があったからだ……
……どうどう? 怖かった?
ん? 某ゲームのバグの内容ほぼそのまんまだって?
あははっ! 知ってたか! まあ有名なバグだし知っててもおかしくないか!
まーでも、こんだけ語り継がれて人々に認知もされてるんだ。現実で起こってもおかしくはないよね。
だからさ、もし君が終わらない夏を体験したいんだったら八月一日から絵日記を書いて、三十日と三十一日に『今日はなんにもないすばらしい一日だった』と書いてみるのも一興だね。
ふふふ……体験談、待ってるよ……
ぼんやりと遠くの空へ想いを馳せる。
人は死んだらどうなるのだろう。
天国へ行くと言う人もいれば、地獄へ行くという人もいる。
何もない、無になるだけと言う人もいれば誰かの守護霊になると言う人もいる。
人によって答えは様々だ。どれが正解というのもないのだろう。
天国も地獄もあるかもしれない。ないかもしれない。
だが、もしあったらちょっと嬉しい。
誰であっても無になるのは少しだけ寂しいから。
風呂上がり ドアを開けると Gがいた
なんでいるのだ そんなところに
……とドアを閉めてから心の中で思わず短歌を詠んでしまうほどの衝撃があった。
この文だと感情は伝わらないと思うけど、それこそ
!マークじゃ足りない感情が瞬間的に湧き上がった。
アレだ、驚きすぎて一周回って冷静になっちゃう感じ。……ちょっと違うか。
それはさておき、下手に開けたら奴がスルッと入ってきてしまうかもしれない。だけどそれだと私が出られない。
それはそれとして逃がすわけにはいかないから殺らないといけない。
でも武器がない。脱衣場をシャンプーまみれにするわけにはいかないし……
と考えていると風呂桶が目に入った。私はそれを手に持って息をはあはあ言わせながら勢いよくGに被せる。
奴はその場に留まったまま風呂桶ドームの客人となった。
……今日ほど色付きのやつで良かったと心から思った日はない。
風呂桶の中のGは明日の私がなんとかしてくれる。
だから今日の私は安心して寝よう。
その目に今まで何を映してきたのかな。
曇ったガラス玉みたいな目をした君。
人生の大半の時を君と過ごしてきたけど、君はついに自らの意思で喋ることも動くこともなかったね。
僕は心の何処かで期待していたんだ。映画やアニメのように何らかの奇跡が起きて、君が歩いて喋るみたいなことが起きないかなあって。
だけどやっぱり現実は残酷だね。そんな夢物語叶うはずもなかった。
君とおしゃべりできたらどんなに楽しいだろうと思ったんだけどね。
まあいいさ。僕が死んだら君も棺の中に入れてもらう手筈になっている。
もしかしたら君はまだこの世界にいたいかもしれないけど……主のいなくなった人形なんて無造作に捨てられるのがオチさ。
ただでさえ僕の家族は男が人形遊びなんて、と理解を示さなかったからね。
もし僕がもっともっと健康体だったら君が付喪神になるまで待ったのだけどね。ままならないものだ。
……ねえ君、もし共にあの世へ逝けたのなら君が見た景色を僕に教えてくれないかな。
僕とのおしゃべりが恥ずかしいのなら他の誰かに言付けても構わない。
僕は君のことをもっとよく知りたいだけだから。
……頼んだよ。僕の初めての友達。