風呂上がり ドアを開けると Gがいた
なんでいるのだ そんなところに
……とドアを閉めてから心の中で思わず短歌を詠んでしまうほどの衝撃があった。
この文だと感情は伝わらないと思うけど、それこそ
!マークじゃ足りない感情が瞬間的に湧き上がった。
アレだ、驚きすぎて一周回って冷静になっちゃう感じ。……ちょっと違うか。
それはさておき、下手に開けたら奴がスルッと入ってきてしまうかもしれない。だけどそれだと私が出られない。
それはそれとして逃がすわけにはいかないから殺らないといけない。
でも武器がない。脱衣場をシャンプーまみれにするわけにはいかないし……
と考えていると風呂桶が目に入った。私はそれを手に持って息をはあはあ言わせながら勢いよくGに被せる。
奴はその場に留まったまま風呂桶ドームの客人となった。
……今日ほど色付きのやつで良かったと心から思った日はない。
風呂桶の中のGは明日の私がなんとかしてくれる。
だから今日の私は安心して寝よう。
その目に今まで何を映してきたのかな。
曇ったガラス玉みたいな目をした君。
人生の大半の時を君と過ごしてきたけど、君はついに自らの意思で喋ることも動くこともなかったね。
僕は心の何処かで期待していたんだ。映画やアニメのように何らかの奇跡が起きて、君が歩いて喋るみたいなことが起きないかなあって。
だけどやっぱり現実は残酷だね。そんな夢物語叶うはずもなかった。
君とおしゃべりできたらどんなに楽しいだろうと思ったんだけどね。
まあいいさ。僕が死んだら君も棺の中に入れてもらう手筈になっている。
もしかしたら君はまだこの世界にいたいかもしれないけど……主のいなくなった人形なんて無造作に捨てられるのがオチさ。
ただでさえ僕の家族は男が人形遊びなんて、と理解を示さなかったからね。
もし僕がもっともっと健康体だったら君が付喪神になるまで待ったのだけどね。ままならないものだ。
……ねえ君、もし共にあの世へ逝けたのなら君が見た景色を僕に教えてくれないかな。
僕とのおしゃべりが恥ずかしいのなら他の誰かに言付けても構わない。
僕は君のことをもっとよく知りたいだけだから。
……頼んだよ。僕の初めての友達。
あの人は何かを隠している。
そうじゃなかったら「私のこと、好き?」という質問に対して「たぶん……」なんて、そんな言葉にならないもの。
だからどーしても納得できなかったからあの人のことを問い詰めたの。
「私のこと、本当に愛してるの? 愛してるんだったらどうして曖昧なこと言うの?」
そうしたら彼は頰を掻いてしどろもどろになりながらも、ちょっと照れくさそうに答えた。
「あの……その、君があんまりにも綺麗で、その……僕なんかが君とお付き合いできるなんて、奇跡、だと思ってるから……
き、君のことはもちろんす…好き、だよ。
だ、だけど、誰かから言われたら……その、自信がなくなる……というか、えっと……」
もごもごと言葉を探す彼に私はとても愛おしくなってギュッと抱きしめる。
いきなりのことに彼はふぇっ!? と高い声を出してガチガチに身を固くしていた。
「私、やっぱりあなたのこと大好きだわ!」
「え……え? なんっ…え? え?」
「ふふっ、私は飾らない人が大好きなの。だからいつまでも自然体なあなたでいてね」
「え、あ……はい」
彼に微笑みかけると彼は優しい笑みを浮かべる。
そうだ、この人に言葉で愛情を示せと無理に言ってもダメ。
こうしてちゃんと言葉以外でも私が大好きだと大切だと示してくれてるじゃない。
私もそれに負けないくらい彼に愛を伝えなきゃね!
§
(平熱になりましたー。
元気なことは素晴らしい!)
ジリジリジリと太陽光がアスファルトを照りつけ、ミーンミーンとすぐそこの木でセミが鳴いている。
こんな暑い中、セミも婚活で大変だなあと思いながら私はペロペロとアイスクリームを舐めつつ炎天下を歩く。
こんなに暑いんだ、買い食いしたって許されると思って買ったのだが、まあ溶ける速度の早いこと早いこと。
手から伝ってこぼれたアイスクリームは地面に点々を作って、儚く消えてしまう。アリが舐める時間もないくらいに。
帰ったら手を洗わなきゃなーと、手についたアイスクリームを舐めつつ帰路に着く。
お昼ごはんを食べたら……何をしようかな?
これは、これからあるかもしれないし、ないかもしれない真夏の記憶。
§
(熱は微熱程度まで下がりました!
ご飯や固形物を普通に食べられるくらいには元気です!)
(高熱が出てしまい、お題のことを考えられる状態ではないので今日はお休みします。
……なんでこんな時になっちゃうかなー……)
【こぼれたアイスクリーム】