その歌はとても穏やかな気持ちになれる歌だった。
元々は親が歌ってくれた子守歌だったが、平常時でも聴きたいとせがんでよく歌ってもらっていた。
だけど俺が五歳の時、親は事故に遭って亡くなってしまった。
暗い部屋の隅で小さくなってグズグズ泣いていると姉や兄が俺の側に来てその歌を歌ってくれた。
二人とも悲しいだろうに、それでも俺を優先して慰めてくれた。
親に代わって俺を育ててくれた姉と兄に恩返しをしたくていっぱい勉強して、高校も出て、これからバリバリ働くぞという時だった。
姉と兄が亡くなってしまった。
燃え盛る家と運命を共にしてしまったからだ。
助けに行きたかった。だけどもう、手の施しようがないほど炎の勢いは強く、熱気で火傷しそうだった。
消防士が懸命に炎を消し止めようとしてくれたけど、炎の勢いは止まることなく闇夜の天を焦がしていた。
業火に呑まれ崩れ落ちていく家を呆然と眺めているとあの歌が聞こえてきた。
二人が最期の力を振り絞って歌っているんだと悟った瞬間、堪えきれなかった涙がボロボロ流れ落ちて地面に小さな水たまりを作った。
そうして天涯孤独となってしまった俺はあの歌をもう歌うことはないだろう。
両親や姉と兄を思い出すのはもちろん、あの歌は口ずさんだ者をあの世へ連れて行く呪いの歌なような気がしてならないからだ。
ただの偶然だと、馬鹿げた妄想だと断じてもらっても構わない。
でももし俺が歌う時が来たとしたら、それはきっと俺が家族に会いたくて会いたくてたまらなくなった時に違いない。
そんな日が来ないことを願うばかりだがな。
ケチャップご飯に薄焼き卵をそっと包み込んでオムライスの完成!
なぜか急にオムライスが食べたくなったけどウインナーも玉ねぎも人参も冷蔵庫の中に入ってなかった。
買い物に行くのはめんどくさいしケチャップご飯と卵だけでいいやと妥協して出来た超簡易的オムライス。
これを素オムライスと名付けてみよう。
さてはてお味はどうかな?
…………うん。ザ・シンプル。それ以上でも以下でもないなあ。
工夫すればもっと美味しくなるかも。
まあでもとりあえずオムライス欲は満たされたからこれでヨシ!
だけど今後に備えて素オムライスの研究でもしておこうかな。
具無しでも私好みで美味しく食べられるように。
私は日々進化している。
いろんな知識を得て、いろんなことを考えて、いろんなものを食べている。
そんなの些細なことだと、当たり前だと言う人もいると思う。
でも考えてみて。まるっきり昨日と同じ私じゃないよ。
今日の私は昨日と違う私。明日の私は今日と違う私。
その積み重ねで未来の私が存在できる。
そして今この瞬間の私や過去の私を完璧にトレースすることは二度とできないのだろうね。
その時に得ていた知識も、考えてたことも、食べていたものも完璧に再現なんてできやしないのだから。
俺の家で幼なじみ殿と勉強会。
英語が壊滅的にできない幼なじみ殿はこの前のテストで大赤点を取ってしまい、追試の前に俺に泣きついてきた。
幼なじみ殿の英語の出来なさはわかっているつもりだったが……まあ、なんというか、俺の想像をゆうに超えていた。
「これはわかるか? “Sunrise”」
「すんりせ!」
「……サンライズな。意味は日の出。
これならわかるだろ。“Future”」
「ふつれ!」
「……フューチャーだ。未来っつー意味。
全部ローマ字読みしてどうすんだよ」
「だってー……英語なんて使わなくても生きていけるしー、今は翻訳アプリっていう便利なものがあるんだもーん……」
机に頬をぺったりくっつけてシャーペンを転がしている幼なじみ殿には学びの意欲が全くと言っていいほど、ない。
「おい、起きろ。追試どうすんだよ」
「え? んー……なんとかなるなる!」
いい笑顔でそう言い放つ幼なじみ殿に俺はダメだこりゃ。と心の中で匙を投げるのだった。
ふわふわ、ゆらゆら、ぱちん。
シャボン玉が風に攫われ飛んでいく。
弾けて消えるものもあるけれど、そうでないものは風に乗ってどこまでも飛んでいく。
それはまるで空に溶けるように上へ上へと、遠く高く飛んでいく。