「どうしても……ダメ?」
目をうるうるさせて上目遣いの彼女に決心が揺らぎそうになるけど、ここはグッと我慢だ。
「ダメなものはダメです」
「ちぇー……」
残念そうに彼女は口を尖らせるけど、僕にだって譲れないものはある。
さすがに動物の着ぐるみパジャマをペアルックで着るのは恥ずかしいよ……!
彼女だけならいつでもずっと見ていたいけど、僕も着るのはちょっとなんか、違うっていうか……
でも何かとてつもないチャンスを逃した気がするんだよね……
もし次に彼女が提案してきたら思い切って着てみてもいい……かも?
彼がいなくなる夢を見た。
彼は凄く悲しそうな顔をして「ごめんね」と呟いて私を置いて去っていく。
まって、まって! と私が走って叫んでも彼は振り返らず、背中はどんどん見えなくなっていく。
ついには完全に見えなくなって、絶望した私がうずくまって泣いている夢だった。
だから目が覚めてすぐ彼の部屋に彼がいるか見に行った。
彼は机に向かって何かを書いていた。ランプに照らされた横顔が普段見せない難しい顔で、少し見惚れてしまった。
私の視線に気がついたのか、彼はいつもの優しい顔になって私に微笑みかける。
「どうしたの? もしかして眠れないのかな?」
「……こわいゆめ、みた。あなたがいなくなるゆめ。
……いいこにしてるから、いなくならないで」
彼は私をギュッと抱きしめて「いなくなったりしない!」と叫んだ。
それがすごく嬉しくて、私の心は幸せでいっぱいになった。
でも……こんなに幸せでいいのかな。
彼の温もりを感じながら私は少しだけ怖くなった。
彼はとても物知りで、私が疑問に思ったことをすぐに教えてくれる。
例えばなぜ朝と夜があるのか、生き物はどうして大きくなるのか、なぜ人には感情があるのか……
私は大切なものをどこかに落としてきたから、身の周りにあるもの、彼が教えてくれるものが私の世界の全て。
だから私のまだ知らない世界はたぶんきっといっぱいある。
いつかは彼と一緒に外の世界へ出てみたいな。
それが今の私の夢。
大嫌いな人がいます。その人は高校の時友達という関係でした。
いつも人のグチばかりで自ら何も行動しない人で、人の悪いところを見るのが得意。そのくせ自分のやることなすことに関しては甘い人でした。
私は我慢してグチを聞いていました。だけどある日耐えられなくなりました。
最初に嫌だなと思った時に友達をやめれば良かったかもしれません。
でも私にはその人を手放す勇気がありませんでした。
その人の同級生の友達が私しかいないことを知っていたからです。
だけど耐えられなくなって初めて理解しました。
このままでは私が壊れてしまうと。
だから高校を卒業した後手放しました。
今その人が何をどこで何をしているのか、健康なのかそうでないのかは知りません。知りたくもありません。
その人が幸せでも不幸でもどちらでもいいです。
ただ私に関わってこなければ、それでいいです。
真っ暗闇ではなんにも見えない。
何があるのかもわからない。
わたしの足下に何があるのか、わたしの周りに何があるのか、そもそもわたしの姿もわからない。
わたしはどんな姿かたちをしているのだろう?
周りはどんな感じなんだろう?
気になる思いがたくさん重なって、わたしは一念発起した。
わたしの力を放って周りを照らす。
上手くいってもいかなくてもわたしの姿くらいはわかるはず。
さあ光輝け、暗闇で!
そうして煌めく光はわたしの影を作り出して、わたしはようやくわたしの姿かたちを知った。
なるほど、わたしはこういう感じなのか。
光はすぐなくなってしまったけど、わたしはわたしがわかったから満足。
でも時々光を放とうかな。だってわたしがもう一人いるみたいでさみしくないから。