草原に姉と寝っ転がって夜空を眺めてみる。
こうして一緒に眺めるのはいつぶりだろうか。
いやそもそも野宿するのも久しぶりな気がする。
最近はゴタゴタに巻き込まれてやっとあの街から旅立てたんだもの。
こうして二人で穏やかな時間を過ごしているとなんだか少しホッとする。故郷を出た直後はずっとこの時間が続くのかとげんなりしたこともあったのに。
「ねえ、あの星は何?」
指差した先には周りの星よりひときわ明るく輝く星。
北極星かなと思ったけどそれよりも明るい気がするし何よりも場所が違う。
そういえば星が寿命を迎える時、星は明るく輝きそして爆発すると本に書いてあったはず。
おそらくそれだろうと姉に話すと姉はふぅんと素っ気ない返事をしてそのまま黙ってしまった。
姉の想定していた答えじゃなかったのかなあと思っていると姉はむくりと上体を起こし、小さな声で呟いた。
「生まれる時は一緒だったんだから、死ぬ時も来世も一緒がいいわ」
あの街のことを引きずっているのだろうか。いつもの姉にしては弱々しく感じた。
僕は体を起こして姉の手を握って安心させるように笑う。
「僕たちは最強で最高の双子だから大丈夫。
なんならここで誓ってみる?」
姉はぽかんと口を開けた後、にっこりと笑う。
いつもの姉の笑顔だ。
「ええ、誓いましょ! わたしたち最強で最高なんだからどんなことだってできるもの。
だからずっとずっと一緒よ! 今世も来世もそのまた先も!」
「僕たちは双子!」
この先どんなことがあっても姉と一緒なら大丈夫。
輝く星の下で誓ったからか、未来は星のように明るい気がした。
『もし願いが一つ叶うならば、貴方は何を願う?』
生涯でおそらく一回以上は訊かれるこの問い。
たとえすごく考えて本心で言ったとしても受け取る人にとってはきっとどうでもいいこと。
お金持ちになりたいとか、世界平和とか、嫌いな人の破滅とか、大好きな人の幸福とか……
そんなこと言われてもふーんそれが一番叶えたい願いなんだなあとしか思わない。
少なくとも私はそう。
そんな私の今現在の願いは『良い文章がすぐ思いつけますように』
貴方は何を願った?
どうしようと思考を巡らせる。
たまには一人で温泉旅行と羽根を伸ばしに来ただけだったのに。
なぜこんなところにあの眠りの探偵と小学生探偵がいるのだろう……
しかも仲良く牛乳飲んでて明らかに誰かを待ってる感じがする。
ということは娘さん待ちかぁ……
温泉入りに来たけど事件に巻き込まれないようにやっぱり部屋に戻ろうと結論を出して踵を返した瞬間、お風呂の方から甲高い悲鳴が。
……嗚呼、やっぱこうなる運命なのか。
あの死神め。
誰にも知られたくない秘密の場所。
妹の場合はロフトがその場所にあたるらしい。
妹が幼稚園児の時、いそいそと何かを持ってハシゴを登ったりしていたからたまに『手に何か持ったままハシゴ使わない!』とお母さんに怒られていることもあったっけ。
まあその次には『口に咥えたままハシゴ登らない!』になってたけど。
そんなこんなで数年かけて妹がコツコツ作り上げた秘密の場所はご丁寧に布とかで秘密基地チックに覆っている。
中で何をしているのかはわからないけど、きっと漫画とかお菓子とか読みふけりの食べ漁りしているんだろうなと思っている。
気にはなるけど気にしすぎてはいけない。だってプライバシーだし。
あの布の内部が家族の誰にも内緒のように、身内は知っちゃダメなこともたくさんあるはず。
そう、私の秘密の場所とかね。
ラララ〜…♪
美しい歌声が聴こえてくる。
どこからかも誰が歌っているのかもわからないその歌声は、ここ数日必ず夕焼け空になったら聴こえてくるようになった。
ある人は魔女だと、またある人は悪魔だと、またまたある人はセイレーンの仕業だと言う。
しかし真相は誰にもわからない。確かめるのが怖いからだ。
もし本当に魔女だったり悪魔だったりセイレーンだったりしたらどんな目に遭うのか想像もつかない。
ボクもそう思っていた。……昨日までは。
町から少し離れた森の中。そのほぼ中心に位置する大樹。
そこに身を預けるように紺色のローブを身にまとった男の人があの美しい旋律を紡いでいた。
だけどその表情はどこか悲しげで全く楽しそうではなかった。
最初はどうしてそんな顔をしているのだろうとおっかなびっくり見ていたけど、歌声を聴いてる内にもっと近くで聴きたいと強く思うようになった。
そしてふらりと一歩踏み出したその瞬間、その人がボクを見て目を見開いた。
ボクがぼんやりとキレイな青い目だなあと思っているとその人は脱兎のごとく逃げ出し、あっという間に見えなくなった。
ボクはぼーっとそれを眺めていたけど急にハッとなって慌てて町に帰った。
町では歌声が急に途切れたことを不思議がってる人もたくさんいたけど、ボクはその理由を言えなかった。
言ったら怒られそうな気がしたから。
そして今日、あの歌声は聴こえてこなかった。
町に平穏が訪れたと安堵している人も大勢いる。
だけどボクの胸はモヤモヤしている。
昨日ボクが森に行かなければ、大樹のところまで行かなければ、あの歌声は今日も聴こえていたのではないかと。
あの歌声に魅入られていると言われても否定できないけど、それでもボクはもう一度聴きたいのだ。あの歌声を。
そのためならばどんなことでもやってやる。