ラララ〜…♪
美しい歌声が聴こえてくる。
どこからかも誰が歌っているのかもわからないその歌声は、ここ数日必ず夕焼け空になったら聴こえてくるようになった。
ある人は魔女だと、またある人は悪魔だと、またまたある人はセイレーンの仕業だと言う。
しかし真相は誰にもわからない。確かめるのが怖いからだ。
もし本当に魔女だったり悪魔だったりセイレーンだったりしたらどんな目に遭うのか想像もつかない。
ボクもそう思っていた。……昨日までは。
町から少し離れた森の中。そのほぼ中心に位置する大樹。
そこに身を預けるように紺色のローブを身にまとった男の人があの美しい旋律を紡いでいた。
だけどその表情はどこか悲しげで全く楽しそうではなかった。
最初はどうしてそんな顔をしているのだろうとおっかなびっくり見ていたけど、歌声を聴いてる内にもっと近くで聴きたいと強く思うようになった。
そしてふらりと一歩踏み出したその瞬間、その人がボクを見て目を見開いた。
ボクがぼんやりとキレイな青い目だなあと思っているとその人は脱兎のごとく逃げ出し、あっという間に見えなくなった。
ボクはぼーっとそれを眺めていたけど急にハッとなって慌てて町に帰った。
町では歌声が急に途切れたことを不思議がってる人もたくさんいたけど、ボクはその理由を言えなかった。
言ったら怒られそうな気がしたから。
そして今日、あの歌声は聴こえてこなかった。
町に平穏が訪れたと安堵している人も大勢いる。
だけどボクの胸はモヤモヤしている。
昨日ボクが森に行かなければ、大樹のところまで行かなければ、あの歌声は今日も聴こえていたのではないかと。
あの歌声に魅入られていると言われても否定できないけど、それでもボクはもう一度聴きたいのだ。あの歌声を。
そのためならばどんなことでもやってやる。
3/7/2025, 2:14:50 PM