いつか聞いたおとぎ話のような物語。
いつの間にか僕たちもそれと同じような物語を紡いでいる。
僕たちはただ好きなように旅をして、時々事件に巻き込まれては人助けをしていただけだった。それなのに双子の英雄とか大層な二つ名がついてしまった。
それのせいでさらに事件に巻き込まれたり、ややこしいことになったりしたけど、僕も姉もノリノリという名のヤケクソで問題解決に取り組んでいた。
そんなこんなのすったもんだがてんこ盛りだから僕たちの旅路を纏めた本が人気になったりするんだろうな。
……まあでも、内容はちょっと盛りすぎなところもあるけどね。
僕たちの旅が終わっても、本の中の僕たちは終わらない物語を紡ぎ続けるのだろう。
それはきっと脈々と受け継がれて英雄譚として、おとぎ話として人々に愛され続けるのだろう。
そう考えるとなんかすごくロマンだね。
もう助からないとわかってしまった彼に伝えるのは、残酷な現実ではない。
彼にとって救いになるような、やさしい嘘。
彼はかつて取り返しのつかない大罪を犯し、多くの人を悲しませた。
でも彼は犯した罪の重さをわかっている。そして血で汚れている自分は地獄に行くだろうと彼は語っていた。
彼は正義感に溢れる真っ直ぐで優しい人だったのに、なぜこんなことになってしまったのだろう。
運命、そして過ぎたる力は恐ろしいものだ。
彼は閃光みたいに私の心に焼き付いて、きっと永遠に離れることはないのだろう。
そしてふとした時に彼のことを思い出して泣きたくなることもあるのだろう。
まるで親しい人を亡くした時のように。
……しかしまさか、オンラインゲームのキャラクターにここまで感情移入するとは正直予想外だったな。
侮りがたし、ドラ◯エⅩ。
かつて流行ったあの曲を瞳を閉じて聴いてみる。
あの頃の思い出が脳裏に浮かんで、ついでに忘れたい痛い思い出や甘酸っぱすぎた思い出も出てきてしまった。
まだ笑い話にもできない思い出たち。
もう後数十年経ったら『あの頃は怖いものなんて何もなかった』と周りに言えるようになるのかな。
あの頃の自分は愚かだったと、若気の至りというのは恐ろしいと、笑いながら酒のツマミにでもするのかな。
縫い目のないシャツ、一エーカーの土地。
それらは全てあなたへの贈り物!
まだ用意できてないけど、必ず贈るから。だからまた会いに来て。
ずっと愛してる。大好きな私の恋人。
置いていったことを怒ってなんかない。
どんなに無理なことでも必ずやり遂げる。必ず用意する。
どんなことをしてもあなたに会いたい。
縫い目のないシャツを水の涸れた井戸で洗うことも、一エーカーの土地が岸辺と海の間でも、私はやり遂げる。……絶対やってみせる。
それであなたが生き返ってくれるなら!
羅針盤はいつだって同じ方向を向く。
それを道しるべにして多くの人が航海をしたり冒険をしたり、ロマンや名誉や利益を追い求めてきた。
たくさんの人を導いてきたその羅針盤は私にどんな景色を見せてくれるのだろう?
そんなことを思っても結局は決意を持って自分の足で前に進める人にしかその先の景色は見られないのだろうけど。