小さい頃、二つの夢をよく見ていた。
一つはデパートの夢。もう一つは洋館の夢。
デパートの夢はいろんな人が買い物をしていて、私は一人でキラキラしたヘアゴムとかを眺めていた。
それを何回か見ていたけどある時、そのデパートには誰もいなくて私一人だけだった。
だけど寂しくも怖くもなくて、明るいデパートの中を探検して最後はいつものヘアゴムを眺めていた。
洋館の夢は、いかにもRPGに出てきそうな薄暗い館を知らない相棒と共に探索していた。
相棒の姿形も性別もわからない。ただ人だということはなんとなく覚えている。
何回かその夢を見たある時、これが最後だという確信を持って洋館の中に入り、行ったことのない一番奥に相棒と向かった。
そこは書斎で、大きい黒い影のような魔物がいて私たちに襲いかかってきた。
私はやられてしまって相棒に後を託したのだけど、気がつくと相棒がチェス(物理)で魔物をボコボコにしていた。
思わず「え? ……えーーっ!?」と叫んでそのまま目覚めてしまった。
それ以来その夢たちを見ることなく大人になった。
もし願いが叶うならあの夢のつづきをもう一度見てみたい。
何かをするわけではない。ただ、懐かしいあの場所にもう一度だけ帰ってみたいのだ。
家に帰ってすぐに防寒着を脱ぎ捨ててエアコンとストーブのスイッチを入れる。
じんわりと暖まる指先にホッと息を吐く。
あったかい……ストーブ、あったかい……!
今日は特に寒いから暖かみが身に沁みる。
部屋も温もってきたところで脱ぎ捨てた防寒着をハンガーにかけて、立ってるついでにお汁粉を作ろうかな。レトルトのちょっといいやつ。白玉もお餅も入ってないけど。
湯せんしたお汁粉パウチをお椀にあけて、フーフーしてからこくっと一口。
……はーっ、このホカホカと甘みがたまらん。
スプーンで小豆を掬ってはふはふ。密かに用意していた塩こんぶも一つまみ。塩味とうま味、これもたまらん。そして何よりお汁粉の甘みが引き立ってより美味しく感じるのよ。
あ〜、身も心も満たされていく。
あたたかいねえ。たまらんねえ。
次は白玉とお餅、どっちを入れようかな。
いっそのこと両方入れようかな?
さすがにそれはやり過ぎかな?
でも一回やってみようかな。たまの贅沢に。
やり過ぎかどうかはその時にわかるはずだから。
これまで辛いことや悲しいことばかりあった。
楽しいことや幸せだったことは、それらに押し潰されて消えてった。
こんな人生もういやだけど、私の立場がそれを許さない。
私は巫女。お飾りの巫女。
人々の悩みも聞くことはない。神の声を聞いて政もしない。
ただ責任を押し付ける先として私は存在する。
だけど、民はそれを知らない。
全ては私が主導でやっていることだと信じている。
だから知りもしないこと、やってもないことで怒られたり石を投げられたりする。
私はただの人でありたかったけど、鍵に選ばれてもいたからそんなのは夢物語だった。
……ねえ、私に同情してくれるのならあなたの手で私の生を閉ざして。
どうだっていいの、もう。
未来への鍵を持っていたってしょうがないの。
あなたが有効活用してくれるなら、私はそれで充分。
世界を救うもよし、滅ぼすもよし。
あなたの好きにして。
歩いている時にふと思った。
隕石って星のかけらみたいなものだよなあ……と。
隕石にはそれほど興味もないけれど、星のかけらと聞けばなんかちょっといいなと思う。
だからといって興味爆上がりということにはならないけど。
自分の弱点は何かと訊かれたら、私は迷わず英語もしくは外国語と答えるだろう。
授業態度だけが良くて、他は軒並み壊滅的。
成績はいっつも2。
そんな私だからRing Ringを見た瞬間、指輪指輪だと思ったのは仕方のないこと。
だけど知らない言葉だから調べて、どんな意味なのかを知った。
電話のリンリンという音、だそうだ。
知らない知識が増えて私はまた一つ賢くなった。
……はずだ。