バスクララ

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11/1/2024, 4:04:41 PM

穏やかな時間が永遠に続くと思っていた。
俺は一生をあの村で終えると思っていた。
それなのになんでだろうね。急にあなたは選ばれし者だとか王様が呼んでますよとか言われてさ。
ほとんど無理やり故郷を旅立って、勇者だとか英雄だとかとちやほやされて、望んでないのに魔王の討伐まで願われてさ。
逃げたかった。いやだって言いたかった。だけど故郷を人質に取られてるも当然だから、拒否権なんてものはハナからなくてさ。
集められた仲間と共にやっとこさっとこ魔王を倒して凱旋したらこれまでよりももっとちやほやされてさ。
ようやく俺に興味がなくなって、久々に自由を手に入れて、故郷に帰ってきたんだ。
そうしたら故郷は全く別物になっててさ。
神みたいに俺を崇め奉ってる友達と俺に縋り付いてくる親……。
俺の欲しかったもの、大切なものはもう手に入ることはないんだなって絶望した。
……だからさ、今度はあいつらの欲しいものや大切なものを永遠に俺が壊してやるって決めたんだ。
そうこうしてたら魔王とか言われてさ。
笑っちゃうよな。あいつらこそ魔王に相応しいのに。
なあ勇者。お前もそう思うだろ?
……魔王の戯言だって? まあそう言うなよ。
死に際に嘘なんか吐くわけないさ。

10/31/2024, 12:19:48 PM

彼がそこにいる。
私の大好きな彼が元気に笑っている。
もう病気に恐れることはない。
ここでずっと私たちは幸せでいられる。
老いることも死ぬこともない。永遠を彼と共にいられる。
未来なんか見なくていい。彼がいなければ未来なんてないも当然だから。
私は彼だけがいればいい。それ以外はいらない。彼がいなければ生きる意味なんてない。
だけど彼は私に生きてほしい、後を追うことは許さないと遺言を残した。
よほど心配なのか夢枕にも立ってきた。
友達も親も部屋の外でしきりに私を呼んで……
……ああ、余計なことは思い出さなくていい。考えなくていい。ここには私と彼だけ。
二十歳になれなかった彼。学校では人気者だった彼。
小さい時に結婚の約束をして、中学を卒業する時におもちゃの指輪で結婚式の真似事もしたね。
そう、思い出の中だと彼は元気に生きている。
私はここで生きていく。
私の幸せ全てがここにある。
ここが私の理想郷だから。

10/30/2024, 12:36:40 PM

例えば小学校の通学路を歩いてみたり。

例えば昔好きだったアニメの主題歌やアイドルの歌を聴いてみたり。

例えば子どもの頃やりこんだゲームを起動ないし実況動画を見てみたり。

例えばかつて自分が考えた最強のキャラクターの物語を思い起こしてみたり。

例えば砂糖がかかった揚げパンに思いっきりかぶりついてみたり。

例えば暗記するほど大好きだったあの呪文やおまじないを空で言えるかチャレンジしてみたり。

例えば卒業アルバムを開いてみたり。

例えば自分が子どもの時にやっていたcmを探して視聴してみたり。

例えば思い出話に花を咲かせてみたり。

例えば……懐かしく思うこと、あなたなら他に何を思いつく?

10/29/2024, 12:40:29 PM

とある洋館で事件が起きた。
被害者は館の主人。頭から血を流して死んでいた。
犯人は長年仕えていた執事。主人の最近の金遣いの荒さを指摘したら激昂したため揉み合った末の事故だった。
たまたまいた探偵によって犯人も動機も明らかになったため、これにて事件解決。お疲れ様でした。

最後まで探偵は知らなかった。
執事に娘がいたことを。

最後まで主人は知らなかった。
執事の娘が自分に深い恨みを抱いてることを。

最後まで執事は知らなかった。
娘がとんでもない演技派で、自分の利益の為ならばどんな嘘でも平気でつくことを。
そして、心身掌握に長けていることを。

私だけが知っているもう一つの物語。
語られる日は永遠にやって来ない。

10/28/2024, 11:33:08 AM

暗がりの中で息を潜める。鬼に見つからないように。
……足音が聞こえる。近くにいるのか探している声だって聞こえる。
……大丈夫。ここは絶対に見つからない。だって私のとっておきの隠れ場所なんだから。
そう思っていてもやっぱりちょっと不安だからさっきよりももっと身を縮こませる。
足音が遠ざかっていって、私はホッと息を吐く。
隠れるのはあまり好きじゃない。ドキドキするから。
それに絶対に音を立てないと思えば思うほど笑いが込み上げてきちゃう。
だけどダメダメ。我慢我慢!
……でもどうしても我慢できなくて、うふふと声が出てしまった。
すると案外近くにいたのか、ふすまがゆっくりと開き鬼がひょこっと顔を出して、にっこりと声をあげた。
「お姉ちゃんみーつけた!」

ま、たまには妹とかくれんぼも悪くないわね。

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