ご主人さまの膝は暖かくて、のんびり寛ぐには丁度いい。85000Hz聴こえる耳だけれど、ご主人さまの膝の上では自分の声とご主人さまの声で耳がいっぱいになる。
僕が語りかけると返してくれるご主人さま。僕とニンゲン、種族は違うけれどご主人さまはいつも話を聞いてくれる。そうだねえと相槌を打ってくれたり、そんなこと言ったってダメなものはダメだよ?と注意されたり。連れ添った年月が僕らの絆を試しているようで、ちょっともどかしい。
僕とご主人さまは出会うべくして出会ったと、僕は思っている。ご主人さまもきっとそう思ってくれていると嬉しい。
冷たいふにゃふにゃしたダンボール箱。兄弟は冷たく死んでしまっていた。僕も同じ運命なのだと、この高い高いダンボールの蓋からは逃げられないんだと。覚悟は出来てなかったけれど、きっともう僕はこの世からおさらばする。そう思っていた。ダンボールの蓋が開いて、ご主人さまの顔を見た瞬間。僕は心底嬉しかった。蓋が開いたことがとても嬉しかった。ダンボールから抱き上げられた時のあの気持ちは言葉には出来ないけれど、一生の思い出になるだろうと思う。
もし僕が虹の橋を渡るとすれば、兄弟に自慢するんだ。僕のご主人さまはとても可愛くて、とてもかっこよくて、とても頼りになって、たまにはお世話もしてあげてるんだよって。きっと僕は自慢するだろう。
きっと僕はこの先も温かい膝で守られ続けられるんだと思う。同時に、この人のお世話も僕の役目だと思っている。そんな今日この頃。
天気はくもりだった。
マルゲリータことマルとはわたしのことだ。主から変わったにおいがしてから、主はあまり部屋からでなくなってしまった。
主はいつもさんぽに連れて行ってくれた。いつも笑顔で、最近は寂しそうな顔も見せていた。あの寂しそうな顔が原因なのか。わたしはてっきりコイワズライとやらだと思っていた。だが、わたしはなにも分かっていなかった。
あの香りがしてから早1年。主はあっという間にこの世を去った。それこそ、花が散るようにあっという間であった。
それこそ儚く、いうなれば呆気なく。主はわたしの日常から消えた。
それからの日々はあっという間に過ぎていった。主のいない日常は、つまらないの一言に尽きる。さんぽしてくれる人、おやつをくれる人、遊んでくれる人、その全てをわたしは失ってしまった。
わたしがもっと早くあのにおいに気づいていたら、何か変わっただろうか。所詮わたしは猫だ。伝えようがない。でも、自分の心の準備くらいはできた。主を忘れないよう、思いっきり甘えることもできたかもしれない。今は何もかもがもう遅いのだ。
主と最後に会ったのは1年前のひまわりの日。わたしも猫として成長した。でも自分が好みのオス猫をみたり、仔猫をもつ想像は全くしようと思わなかった。
今は、主の思い出に浸っていたい。立ち直るのは、もう少し先でも…主は悲しみませんか?
大好きな主。好きな物は、失ってから気づいても全てが遅かったのだ。
わたしはねこである。なまえはマルゲリータ。どうやらわたしの主がすきな食べ物らしい。(わたしはたべたことはない)
マルゲリータのマルちゃんとよばれている。マルちゃんと呼ぶならマルゲリータではなくマルでよかったのではないかとおもうが、主のこだわりがあるらしい。
きょうもきょうとて主のひざでのんびりしているわたしだが、主がたまにはさんぽに行こうというのでさんぽに行くことになった。よそのねこはさんぽに行くことはないらしい。わたしには考えられない。
主のじゅんびができた頃をみはからって、足にすりよってみる。主はこのしぐさに弱い。一撃必殺、ようするにいちころである。なんかよく分からない巻き物をからだにつけて(これがきゅうくつ)、主がリードをしっかりともってから玄関を開ける(べつに逃げたりしないのに)。
今日の天気は晴れだが、ところどころくもっている。快晴というより、晴れ。わたしはこのくらいの天気がすきだ。
右をみて、左をみて、いざ出発しようと思っていたら隣の家の黄色いもふもふで大きな花を見つけた。近づいてよくみてみたいのでにゃーと可愛く鳴いて、わたしに着いてくるように主をゆうどう(チョロい)。近くで見ることができた。
とても大きい。わたしの顔よりもっと大きい。真ん中は茶色くもふもふしている。花びらは黄色くたくさんある。とても綺麗だ。黄色と茶色の組み合わせもとても綺麗である。
ふんふんと堪能していると、主がこれは「ひまわり」という花だと教えてくれた。あったかくなってくると咲く花だそうだ。咲き終わるとハムスターとやらのご飯がとれるらしい。味は渋いそうだ。
楽しそうだが、寂しげな顔をしてひまわりをみつめる主。
そういえば最近主からかわったにおいがする。香水でも変えたのだろうか。でも主は香水はつけないタイプだから、恋人でも出来たのか?にゃふふ…ニヤリと笑うわたしを、主は切なくみつめる。
この時は、死のにおいなんて知る由もなかった。