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ご主人さまの膝は暖かくて、のんびり寛ぐには丁度いい。85000Hz聴こえる耳だけれど、ご主人さまの膝の上では自分の声とご主人さまの声で耳がいっぱいになる。

僕が語りかけると返してくれるご主人さま。僕とニンゲン、種族は違うけれどご主人さまはいつも話を聞いてくれる。そうだねえと相槌を打ってくれたり、そんなこと言ったってダメなものはダメだよ?と注意されたり。連れ添った年月が僕らの絆を試しているようで、ちょっともどかしい。

僕とご主人さまは出会うべくして出会ったと、僕は思っている。ご主人さまもきっとそう思ってくれていると嬉しい。

冷たいふにゃふにゃしたダンボール箱。兄弟は冷たく死んでしまっていた。僕も同じ運命なのだと、この高い高いダンボールの蓋からは逃げられないんだと。覚悟は出来てなかったけれど、きっともう僕はこの世からおさらばする。そう思っていた。ダンボールの蓋が開いて、ご主人さまの顔を見た瞬間。僕は心底嬉しかった。蓋が開いたことがとても嬉しかった。ダンボールから抱き上げられた時のあの気持ちは言葉には出来ないけれど、一生の思い出になるだろうと思う。
もし僕が虹の橋を渡るとすれば、兄弟に自慢するんだ。僕のご主人さまはとても可愛くて、とてもかっこよくて、とても頼りになって、たまにはお世話もしてあげてるんだよって。きっと僕は自慢するだろう。

きっと僕はこの先も温かい膝で守られ続けられるんだと思う。同時に、この人のお世話も僕の役目だと思っている。そんな今日この頃。

天気はくもりだった。

10/8/2025, 6:20:40 AM