君の口から漏れ出る声が、歌となって僕の耳に届く。
「綺麗だね」と言うと、君はどんな顔をしたっけ。
もう、覚えていない。いや、思い出したくないのかな。
肝心なことはいつも忘れてしまう。
ほら、またそうやって、
僕に顔も見せず歌うんだろう?
僕を苦しませたその歌を
君が紡ぐ歌
苦しい、苦しい、貴方が、貴方が見えない。
貴方が離れて行く。苦しい、苦しい。
手が届かなくなる。貴方が
光と霧の狭間で
「好きだなんて」
彼はそう言って僕を見つめる。たった数十秒。
その言葉の先には何も紡がれなかった。
別にその先を期待していたわけじゃないが、
少々残念というか、なんというか。
彼は照れくさそうに僕から目を逸らし始めた。
照れてるな、そう思うには彼の目は泳ぎすぎだった。
僕は彼の赤くなった頬を包み込み、
「好きだ」
そう言ってやった。
彼は顔を真っ赤にした。そのタイミングを狙い
「なんて、言ったらどうする?」
ここからは君の番だよ。
#I LOVE…
「ありがとう」
浮ついただけの軽い言葉、なんて思ってた。
相変わらず酷い性格をしている。どうしてマイナスとしか捉えられないのだろうか。
素直になれない。自分の気持ちを伝えられない。
恥ずかしいとかそれ以前の問題だった。
「バカみたいだ…」
素直に感謝くらいしていれば
彼は轢かれた。
俺を庇った。
ほんとに馬鹿みたいだった。
なんでこんな俺が生きて彼が死ななきゃならないんだ。
「ごめんなさい…ごめんなさい…」
ただ謝った。頭の中はそれでいっぱいだったから。
彼は息さえしているが、目を離したら死んでしまいそうで。
「謝るなよ、俺が悪いみたいじゃん」
何言っているんだ。
「守ってやったんだから、感謝くらいしてくれよ」
本当に馬鹿なのだと思う。自分が何をしたかも知らずに
「あー、しんどい…帰りてぇな…」
「ごめん……俺が…」
「だからもういいって!辞めろ!」
「先逝ってごめんな」
最後に謝ったのは彼だった。
やっぱり俺が悪かったんだ。
たまに自己暗示に陥る。
彼の顔を思い浮かべる。
自分がどんどん嫌になる。
何も言えていなかった。そういう状況だったとかじゃなくて、ただ、紡ぐ言葉すら出てこなくて。
「ありがとうとか…感謝とか…」
よく分かんねぇよ。
今はまだ、彼に会えないから、会えたその時は
人生で最後の感謝を伝えたいなんて。
#タイトル忘れましたごめんなさい
一つ、また一つと命は枯れ、
一つ、また一つと命は生まれる。
今、俺の目の前に居る彼は紡がれた命の一つ。
そして俺も紡がれた命の一つ。
その二つは、どこか似ていて、でも何もかもが違う。
俺たちは命を紡げない。
解ってた。辛かった。
彼は笑ってくれただけだった。
知らないフリをしたかった。
こんな俺が縋りついている彼が不憫で仕方ない。
分かっているつもりなのに。
「何泣いてるの、」
「何でもない…」
「なら泣かないでよ。」
彼は俺の手を取り応えた。
その手は暖かくて、大きくて。
「…本当は、女が、良い、とか思ってんの?」
「は?」
「子供も、結婚も、出来ないよ、こんな俺じゃ」
止まらない。いつの間にか目から涙も溢れていた。
「…ばかかよ、」
彼はふ、と笑うように言う。
「そんなおまえだから、愛したんだろ。」
彼が笑って唇を落とす。
それだけで幸せで。
俺の命の道はここで終わる。でも
どこか、幸せなような。このままでいたい。
#小さな命