足駄

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6/14/2024, 4:06:32 AM

 あじさいの茎の下には金が埋まっている!

 これは信じていいことなんだよ。何故って、あじさいの花があんなにも見事に咲くなんて信じられないことじゃないか。俺はあの美しさが信じられないので、この二三日不安だった。しかしいま、やっとわかるときが来た。あじさいの茎の下には金が埋まっている。これは信じていいことだ。

……いや、ただ口からでまかせを言ってるわけではなくてだね。こればっかりは本当の話なんだ。
君、あじさいの花の色が変わる理由を知っているかい。品種?違うね。色水?それも違う。
正解はね、土壌なんだ。土の中に含まれているアルミニウム。コイツがあじさいの色素と反応してね、あじさいの色を青く変えちまうんだ。不思議な花だろう?言葉にできない美しさだって、科学を用いれば即座に解決可能というわけさ。

……今、君アルミニウムと聞いて何を思い浮かべたね?そうだね一円玉だ!……なに?自分が思い浮かべたのはアルミホイル?そんなの些細な違いだろう。とにかくね、アルミニウムといえば一円玉なんだ。
想像してみるがいい。君、この静々と咲き乱れているあじさいの花の下へ、一つ一つ金が埋まっていると。いそぎんちゃくの食糸のような毛根が小銭を絡めて、その鈍い輝きを吸っているのを。
とかく疑問だったんだ、あのなにもかも彩度の落とされたグレイの梅雨の視界で、何故あじさいだけが鮮やかに光を集めているのか。つまりあれは金の輝きなんだ。

で、どうだい?俺と一緒に青いあじさいを残らず掘り起こして、小金持ちになる気はないかい?


お題「あじさい」

6/6/2024, 11:06:31 AM

……うん。うん。そんで全部やんなっちゃって、うちに来た、と。そっかぁ、大変だったねぇ。
何にも上手くいかない日だって、やることなすこと全部ダメな日だってそりゃあるよ。うんうん。あ、新しいの開けてる。きみ、だってさっき開けたチューハイだって飲みきってないのに。ほらちゃぽちゃぽいってる……って、聞いてないし。
なんかむにゃむにゃ言ってるじゃん。お腹空いたの?空いてないのかぁ。
んー?どしたの?……最悪だって?……。あたしがいんのにぃ?
えいっ。……ほら、こうやってさ、目を手で覆っちゃえば、真っ暗でしょ。
辛いんだったらさ、見なきゃいいんだよ。見なきゃ無いのとおんなじだ。
ん?あったかい?んは、お酒呑んでるからねぇ。ぽかぽかだよ。添い寝したげよっか。ん、今日は特別ね。
ほらおいで、……んふふ、かわいいねぇ。頭撫でたげる。よくがんばったねぇ。
もう目ぇ瞑ってさ、全部忘れちゃお。
あたしとさ、楽しい夢だけ見てようよ。ね。


お題:最悪

6/5/2024, 7:09:07 PM

秘密を作った。
出来心だった。
なんてこともない話。先週末に遊んでいたのは中学生時代の同級生だってこと、それだけ。
あなたは知らない人で、テニスが上手くって、と質問に答えようとして、ものぐさと見栄っ張りが顔を出した。
だから、秘密を作った。
「まぁ、ちょっとね」と笑って誤魔化してみた。
そうすれば、目に見えないところを増やせば、私はもっと魅力的になれるかな、なんて。
そう、ちらりと反応を窺えば、向かいのあなたは「へぇ、……」と口をきゅっと結んで、にこりと笑う。生まれた空白を補うように。
あ、と頭蓋にすきま風が通り過ぎたのを見ないふりして、目を逸らしてストローを噛んだ。ふやけた紙の味が飲み物の良さを全部殺して、あなたはどんどん大きくなるのに私はどんどん小さくなる。見て見ぬふりしてなんにもなかったように笑う、優しくて残酷なあなたの前で、私が浮き彫りになる。
わざわざ作る必要なんて無かった。
こんなに薄っぺらい自分を1人で持て余していること、それ自体が私の、


お題:誰にも言えない秘密

5/22/2024, 7:57:34 AM

例えるなら、水滴。
シンクに一粒、所在なさげに揺れる雫。微風にすら全身を震わせるその姿が寂しげで、かわいそうになる。
蛇口を捻れば、少し耳障りな錆の噛みあう音と共に流水が勢いよく解き放たれて、渾然一体。雫は押し流されたのか溶け合ったのか、なんだかよくわからなくなった。
色さえついていればな、と思う。そうすれば、水滴は大海の中で緩やかに解けて、馴染んで、自分という個を仄かに色づいた全を持って証明するのに。

例えるなら、色のない人だった。
無地の服ばかり着るような人だった。
眉を下げて笑う人だった。
いつも私の提案を待っている人だった。
真っ先に口から「ごめん」とこぼれる人だった。
私に何にも残してくれない人だった。
それだけ。
全部涙と一緒にほどけて、もう、よくわからない。


お題:「透明」

5/20/2024, 8:08:38 AM

水鳥だって水面を汚さず飛び立つことができるのに、あなたって人は。

お題:「突然の別れ」

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