お題:「真夜中」
「とっぷり」という擬音が好きです。
日暮れと湯船くらいにしか使わない、あの夜の言葉が大好きです。
思うに、夜にはなんだか粘り気があるのです。街中の夜空はなんだか薄くてざらついているけれど、ふと空を見上げ、その暗さに初めて気がついた、あの時。チューブからそのまま絞り出してべったり塗りつけたような夜闇は、確かな質量を持って私を包み込むのでした。
熱くはった湯船に身体を沈め、やがて波紋が収まった時。温みはさらりとした湯水を介して私の体を包みます。まとわりつく火照りに大きく息を吐けば、窓から冷気が肌を撫ぜてくれるのが心地が良く、ゆっくりと目を閉じました。
誰もが眠るこの静寂に、暗闇と温もりに浸かる真夜中が、私は一等好きなのです。
お題:愛があればなんでもできる?
……?
今更何言ってるの?
できないなんて言わせないよ。
ねぇ、ならどうして「愛」なんて言葉を使ったの?
ねぇ、ならどうして私だけは特別だなんて言ったの?
ねぇねぇねぇ、このわがままだって許してよ。
いつもみたいにかわいいって笑ってよ。
私、あなたのことが大好きなんだよ。
私、あなたのことを愛してるんだよ。
私たち、両想いなんだよ。
想いが通じ合ってるんだよ。
ねぇ、私の大好きな人。
愛ってさぁ、私とお揃いの暗闇に堕ちてくれるってことじゃないの。
お題「明日世界が終わるなら」
明日世界が終わるなら、今日のあなたに殺されたい。
世界から誰もいなくなる前に、私がいなくなった世界を誰かに覚えていてほしい。
我儘かしら。でも私の最後の日だもの、思いっきり我儘を言わせてほしい。
あなたの目に、耳に、掌に、私の全部を焼き付けたいの。あなたと一つになりたいの。
だから世界最後の日には、ねぇあなた。
どうか、私を食べて。
約束よ。
お題:君と出逢って
どこかの学者曰く、人間は、最も一緒に時間を過ごすことの長い5人の平均になるらしい。
でも多分これは嘘。
だって、僕の全部は君でできている。
お題:カラフル
「虹って国によって色の本数が違うらしいね」
日本は7本でしょ?アメリカとかイギリスは6本、ドイツは、と指折り指折り彼女は僕に実演してみせる。頬杖をつきながらぼうっとその白い指を眺めた。
「不思議でしょ?でもなんだかショックだなぁ……」
「どうして」
「だって、人によって見てる世界の色が違ってるってことでしょ?一緒にいるのに、一人ぼっち」
それって寂しいよ、と肩を落とす。さら、と黒く柔らかな髪が顔にかかり、彼女はそれを掬い上げて耳にかける。ぱちりと目が合ったのに、なんだか喉が詰まった。
「……まぁ、そういうもんだろ」
「そういうものかなぁ」
うぅんと首を捻る彼女をじっと見つめる。そうでなきゃいけない、と口の中だけで言葉を転がす。
だって、他のやつにも君がこんなに鮮やかに見えてくれちゃあ困るもの。