ごろ寝のみこと

Open App
5/7/2022, 4:02:01 AM

「姉ちゃんはさ、明日世界が終わるなら何か願う事とかある?」

「は? しらなーい」

俺からの質問に雑な答えを返してきた姉。
テレビをつけては、姉は定位置であるソファにごろんと寝転がった。
適当にチャンネルを変えては、今人気のあるイケメン俳優が出ていたバラエティ番組を見つけると、さっき俺をチラ見していた視線とは違い、キラキラした目でテレビに映るイケメンを見ていた。

「えっというか、何でそんなこと聞いてくんの? 何かの予言でも信じちゃった?」

「違う。 ただ、クラスのみんなが昨日やってたテレビの影響で今日盛り上がってたんだよ。 だから何となく聞いてみただけ」

「ふーん」

やたらつまらないと言わんばかりの顔をされた。
なんだよ、予言信じててほしかったのかよ。

「アンタはなんて答えたのよ?」

「えっ……いや、へっ平和的な……?」

「ふーん、平和か。 まぁ、いんじゃない? 平和なのは何より~」

なんかまた適当な言い方な気もするけど、俺の答えに対して変に茶化したりしてこない姉を持って俺は良かったな、とは思う。
友達の話を聞いていると、よく否定されたり、からかわれたりして喧嘩することが多いみたいだが、ウチは変にお互いのことに対してあまり突っかからないから喧嘩もおそらく少ない方だろう。
ある意味平和だ、こういう平和を俺はずっと望んでるのかもしれないな。
世界が終わるなら、家族とこんな普通の生活がまたできる所に生まれて過ごしたい。
うん、学校では何となくで答えてたけどこれだな。

「ねー、お腹空いたからちょっとお菓子買ってきて」

「いや自分で行けよ」

「イケメンから目が離せないの! 超忙しい!!」

でもこういう所は普通に腹立つ。
弟をパシリに使いやがって……。
はぁ……仕方ない、今回は答えをスッキリさせてくれたお礼に買ってきてやるか。
そんなこと本人には絶対言わないけど。

「あとジュースもよろしく~」

「はいはい……」






【お題】明日世界がなくなるとしたら、何を願おう。

5/5/2022, 12:36:00 PM

「あなたって本当にエリートなの?」

「勿論だよ、キミは信じてくれてないの?」

「だって、毎日こっそり私に会いに来ているのだもの。 人と接点を持つことは禁止なのでしょう? バレたら罰を受けるようなことをエリートがするとは思えないわ」

「僕はする。 キミに会うためなら誰にも見つからないエリートにだってなってみせるよ」

「私にそんな会いに来てくれる程の魅力があるとは思えないのだけれども」

「そんなことないさ、信じてくれてないように見せかけて心配してくれる優しさも謙虚さもキミの魅力だよ」

まるで口から先に生まれてきたのかと思う程に、私の言葉に上手い返しをしてくる小さな妖精。
初めて会った時もそうだった。
普段は誰も行かない、少し暗い小道を進んで行った先にある、狭いが太陽の光が綺麗に差し込む草原で1人静かに小話を書いていた。
そんな時に現れたのが、今目の前にいる小さな妖精の彼だった。
見たこともない小さな生き物に驚きと動揺を隠せずにいた私は、きっと彼にとても酷い事を当時は言ってしまっていたかもしれないのに、彼は落ち着いた声で私に優しく自身の事を教えてくれたり、私の質問に答えてくれた。
彼の言葉を聞いていると不思議と落ち着いてきて、いつの間にか私は自然と彼とお互いの話をしていて、その日が終わればまた次の日に同じ場所で会い、お互いの話をしたり、その日の出来事を話したり……とにかく色んな話をお互いにできる程の深い仲になっていた。
今では彼と会うことが大切な日常で、彼と会って話をするこの少しの時間がとても大切なものになっていた。

そんなある日、彼は妖精の世界では人間と関わりを持つことはタブーだということを話してきた。
そして、その事が見つかると罰を受けてしまうということも……。
その罰の内容までは教えてはくれなかったけれども、いつもは明るい彼の雰囲気が一瞬暗くなっていたのを感じたので、きっと重いものなのだろうと思い、それ以上は私も深く詮索するのをやめた。
でも、どうしても見つかってしまった時の事を考えると心配でならない。
私は彼の事が今では大好きなのだから、彼に辛い思いをさせたくないのだ。

「そんなに悲しそうな顔をしないで欲しいな。 キミが何を考えているかは想像ができるけど、心配する必要はないよ」

彼は私の少しの雰囲気や表情の変化で色々と感じ取ったのだろう。
彼はそっと私の頬に小さな小さな手を当てて、優しく撫でてくれた。

「さっきも言ったじゃないか、僕はエリートだから大丈夫だって。 もし見つかったとしても上手く誤魔化せる自信があるんだ、だから心配しなくても平気さ」

「そんなの分からないじゃない……」

「分かるよ、上手くいく」

彼は真っ直ぐに私の顔を見てきている。
とても自信に溢れている顔だ。
だが、その顔はすぐに寂しそうな表情へと変わり、悲しそうな声で私に言ってきた。

「僕は……キミと会っていることが見つかって罰を受けることよりも、キミと別れてしまう時の方が怖い」

……前に話してくれていたのを覚えている。
妖精は人間よりも寿命がとても長いのだと。
私からすると長い時間も、彼にとっては私とのこの時間もあっという間の出来事なのかもしれない。
でも彼は、私とのこの時間を大切に思ってくれている。
そして、そんなに大切にしてくれているのに私は彼よりも先にこの世から居なくなって、彼を1人にしてしまうのだ。

「キミがいなくなる時、僕はどうなってしまうのかな……僕もキミと同じ所へ行こうとするのかな」

残される側の彼の気持ちはきっととても辛いものなのだろう。
私が想像しても、彼にとってはそれ以上の辛さなのかもしれない……でも。

「それは駄目よ、絶対に生きてて」

「キミはたまに酷なことを言うよね、僕にはその自信だけはないよ」

「……待っててほしいの、私のことを」

私がそう言うと、彼は不思議そうに首を傾げた。
それはそうだよね、この世にいなくなるのに何を待つのだと思うのは当然だと思う。

「あなたと同じになれるように、生まれ変わるから。 だから待ってて……そして生まれ変わった私をあなたが見付けてほしいの」

「……それは凄く難しくないかな?」

「大丈夫、だってあなたはエリートだもの。 きっと私のこと見付けてくれるわ」

彼は驚いた顔をしたと思えば、今度は苦笑いをした。
これは私からのあなたへの信頼しているという精一杯の言葉。
勘のいい彼ならきっと、私の気持ちも伝わったと信じている。

「本当にキミは、たまに酷なことを言うよね」

「そうだ、私はあなたとの出来事をこの紙にこれから書いていくから、私だと思った妖精に見せてよ。 見せたらあなたの事をきっと思い出すわ。 思い出す自信しかないの」

彼はずっと苦笑いをしている。
私にだって分かっている、そんなことは奇跡でも起こらない限り有り得ないってことを。
彼だって分かっているのに苦笑いをするだけで否定をしてこないのは、その奇跡が起きてほしいからだろうって思っている。

私の人生はただ平凡に生きて、それなりの歳まで生きれたら、もうこの世から去れたらいいなくらいにしか思っていなかった。
でも今は、彼と出逢ってしまったことで彼との時間がもっともっと欲しい……そう思うようになってしまった。
この短い人間の寿命が、今はとても憎くも感じてしまう。
限りある今この時間と来世の長い長い時間を、私はあなたと共に過ごしたい……そう、強く思っている。

「ねえ、大好きよ?」

今まで彼に一度も言ったことがない言葉を口にした。
彼の顔は相変わらず苦笑いのままだ。

「仕方ない、キミのためならキミを探すエリートにも僕はなろう」






【お題】君と出逢ってから、私は・・・

前日のお題(大地に寝転び雲が流れる・・・目を閉じると浮かんできたのはどんなお話?)が見事に間に合わなかったので、途中まで書いていた話をアレンジしました。

5/4/2022, 7:01:14 AM

どうして今なのか、過去に僕が言った言葉が頭の中で鮮明に思い出された。

――僕は異世界転移が大好きだ。


思い出のRPGのゲームを始めたと思ったら、僕は行ったことはないのにどこか見覚えのある不思議な世界へと迷い込んでいた。
最初こそは混乱していたが、トントン拍子に次から次へと見覚えのある事が進んで行き、ある時気が付いたんだ。
ここはあの思い出のRPGのゲームの世界だと。
元の世界では異世界モノの漫画や小説が流行っていたため、少なからず知識はあったが……これが本当に起こるとは。
なんて思ってしまう所も漫画の展開で見覚えがあるから、僕自身も誰かの物語の中の人なのかもしれないなんて考えていた時もあり、恐怖心も感じていた。

でも、そんな事を思いながらもゲーム内での時間は勝手に進んでいくもので、気が付けば魔王を倒しに行くことなっていたり、気が付けば近くに信頼できる仲間がいて、色々な場所を一緒に冒険をしていたり……。
大変なことはあれど、正直充実した楽しい生活だった。
仲間と笑い合うこともあれば、喧嘩もしたし、落ち込んだり励ましたり、一緒に悩んだり……とにかくこの世界での生活がとても好きになっていた。
こんなに楽しい生活になるなんて、異世界に転移するのも良いものじゃないか。
こんな素晴らしい世界で素晴らしい仲間と一緒にこんなにも素晴らしい経験ができるなんて……。

――僕は異世界転移が大好きだ。


「エンド……ロール?」

一緒に頑張ってきた大好きな仲間たちと無事に魔王を倒して喜び合っていた。
「お疲れ様」「やったね!」「これで平和になる!」そんな言葉が飛び交っていた。
僕はその声たちを聞ききつつ、嬉しさも感じながらも一度ゆっくりと目を閉し、目を開いた瞬間……僕はとても見覚えのある部屋の中におり、目の前にあるテレビ画面を見つめていた。
画面にはゲームを制作した人達の名前が次々と表示されている。

「嘘、だよね?」

先程まで聞いていたみんなの声も、あのまだ微かに残っていた禍々しい場所の雰囲気も、何事も無かったかのように今は自分の部屋でゲームのコントローラーを握りしめて立っているだけ。
確かにあったあの時間に嬉しいという感情……余韻もしっかり残っているから夢なんかじゃない。
でも、何もない……あるのはゲームが終わった画面である。
僕は握っていたコントローラーを投げてテレビ画面へと飛びついて思わず言葉を発した。

「嘘だよね? だって僕はまだみんなに何も言えてないんだよ? 僕はみんなの声を聞いていただけなんだよ? それなのにこんな……こんな急に?」

――僕は異世界転移が大好きだ。

どうして今この言葉が思い出されるのか。
本当に大好きだった世界に仲間たち。
でもこんな急な別れを与えられた今は、そんなことなど思うことはできなかった。

「嫌いだ……こんな思いをさせられなんて、僕は異世界転移が大嫌いだ」

そう言葉にした途端、体の力が抜けてその場に僕は膝から崩れ落ちた。

「せめて……みんなにありがとうって伝えさせてよ……」

僕はもう、みんなには届かないと分かりつつも、画面で流れているエンドロールを見つめながらも何度も何度も「ありがとう」と呟いた。







【お題】「ありがとう」そんな言葉を伝えたかった。

5/2/2022, 2:58:50 PM

「前にも言ったよね? やめてって」

そう、少し冷たい言葉で彼に言ってみたが、彼の表情は変わらず涼しい顔をしていた。
また効果は無し……これで何度目だろうか。
何度言っても頑なに変えない……絶対遊ばれている。
私だって頑張ってるのに、どうしてこうも毎回似たような結果で終わるのか。
下手ですか、そうですか、やめてほしければまだまだ努力しろってことですか。
ほんっと悔しい、1回くらい本気になってくれてもいいじゃん。

「いつまでこんな手加減されてプレイされなきゃなんないの!」

悔しい悔しい悔しい!
ゲームでの手加減する優しさなんて、嬉しくもないんだから!

「次こそ本気でやってよね!?」

今度こそ、今度こそ絶対に手加減なんてしてられないくらい今のより上手くやってみせるんだから!
覚悟しててよね!?

「さっきから顔怖いよ」

「そういうとこは優しくしなさいよね!?」






【お題】優しくしないで