どうして今なのか、過去に僕が言った言葉が頭の中で鮮明に思い出された。
――僕は異世界転移が大好きだ。
思い出のRPGのゲームを始めたと思ったら、僕は行ったことはないのにどこか見覚えのある不思議な世界へと迷い込んでいた。
最初こそは混乱していたが、トントン拍子に次から次へと見覚えのある事が進んで行き、ある時気が付いたんだ。
ここはあの思い出のRPGのゲームの世界だと。
元の世界では異世界モノの漫画や小説が流行っていたため、少なからず知識はあったが……これが本当に起こるとは。
なんて思ってしまう所も漫画の展開で見覚えがあるから、僕自身も誰かの物語の中の人なのかもしれないなんて考えていた時もあり、恐怖心も感じていた。
でも、そんな事を思いながらもゲーム内での時間は勝手に進んでいくもので、気が付けば魔王を倒しに行くことなっていたり、気が付けば近くに信頼できる仲間がいて、色々な場所を一緒に冒険をしていたり……。
大変なことはあれど、正直充実した楽しい生活だった。
仲間と笑い合うこともあれば、喧嘩もしたし、落ち込んだり励ましたり、一緒に悩んだり……とにかくこの世界での生活がとても好きになっていた。
こんなに楽しい生活になるなんて、異世界に転移するのも良いものじゃないか。
こんな素晴らしい世界で素晴らしい仲間と一緒にこんなにも素晴らしい経験ができるなんて……。
――僕は異世界転移が大好きだ。
「エンド……ロール?」
一緒に頑張ってきた大好きな仲間たちと無事に魔王を倒して喜び合っていた。
「お疲れ様」「やったね!」「これで平和になる!」そんな言葉が飛び交っていた。
僕はその声たちを聞ききつつ、嬉しさも感じながらも一度ゆっくりと目を閉し、目を開いた瞬間……僕はとても見覚えのある部屋の中におり、目の前にあるテレビ画面を見つめていた。
画面にはゲームを制作した人達の名前が次々と表示されている。
「嘘、だよね?」
先程まで聞いていたみんなの声も、あのまだ微かに残っていた禍々しい場所の雰囲気も、何事も無かったかのように今は自分の部屋でゲームのコントローラーを握りしめて立っているだけ。
確かにあったあの時間に嬉しいという感情……余韻もしっかり残っているから夢なんかじゃない。
でも、何もない……あるのはゲームが終わった画面である。
僕は握っていたコントローラーを投げてテレビ画面へと飛びついて思わず言葉を発した。
「嘘だよね? だって僕はまだみんなに何も言えてないんだよ? 僕はみんなの声を聞いていただけなんだよ? それなのにこんな……こんな急に?」
――僕は異世界転移が大好きだ。
どうして今この言葉が思い出されるのか。
本当に大好きだった世界に仲間たち。
でもこんな急な別れを与えられた今は、そんなことなど思うことはできなかった。
「嫌いだ……こんな思いをさせられなんて、僕は異世界転移が大嫌いだ」
そう言葉にした途端、体の力が抜けてその場に僕は膝から崩れ落ちた。
「せめて……みんなにありがとうって伝えさせてよ……」
僕はもう、みんなには届かないと分かりつつも、画面で流れているエンドロールを見つめながらも何度も何度も「ありがとう」と呟いた。
【お題】「ありがとう」そんな言葉を伝えたかった。
5/4/2022, 7:01:14 AM