ごろ寝のみこと

Open App

「あなたって本当にエリートなの?」

「勿論だよ、キミは信じてくれてないの?」

「だって、毎日こっそり私に会いに来ているのだもの。 人と接点を持つことは禁止なのでしょう? バレたら罰を受けるようなことをエリートがするとは思えないわ」

「僕はする。 キミに会うためなら誰にも見つからないエリートにだってなってみせるよ」

「私にそんな会いに来てくれる程の魅力があるとは思えないのだけれども」

「そんなことないさ、信じてくれてないように見せかけて心配してくれる優しさも謙虚さもキミの魅力だよ」

まるで口から先に生まれてきたのかと思う程に、私の言葉に上手い返しをしてくる小さな妖精。
初めて会った時もそうだった。
普段は誰も行かない、少し暗い小道を進んで行った先にある、狭いが太陽の光が綺麗に差し込む草原で1人静かに小話を書いていた。
そんな時に現れたのが、今目の前にいる小さな妖精の彼だった。
見たこともない小さな生き物に驚きと動揺を隠せずにいた私は、きっと彼にとても酷い事を当時は言ってしまっていたかもしれないのに、彼は落ち着いた声で私に優しく自身の事を教えてくれたり、私の質問に答えてくれた。
彼の言葉を聞いていると不思議と落ち着いてきて、いつの間にか私は自然と彼とお互いの話をしていて、その日が終わればまた次の日に同じ場所で会い、お互いの話をしたり、その日の出来事を話したり……とにかく色んな話をお互いにできる程の深い仲になっていた。
今では彼と会うことが大切な日常で、彼と会って話をするこの少しの時間がとても大切なものになっていた。

そんなある日、彼は妖精の世界では人間と関わりを持つことはタブーだということを話してきた。
そして、その事が見つかると罰を受けてしまうということも……。
その罰の内容までは教えてはくれなかったけれども、いつもは明るい彼の雰囲気が一瞬暗くなっていたのを感じたので、きっと重いものなのだろうと思い、それ以上は私も深く詮索するのをやめた。
でも、どうしても見つかってしまった時の事を考えると心配でならない。
私は彼の事が今では大好きなのだから、彼に辛い思いをさせたくないのだ。

「そんなに悲しそうな顔をしないで欲しいな。 キミが何を考えているかは想像ができるけど、心配する必要はないよ」

彼は私の少しの雰囲気や表情の変化で色々と感じ取ったのだろう。
彼はそっと私の頬に小さな小さな手を当てて、優しく撫でてくれた。

「さっきも言ったじゃないか、僕はエリートだから大丈夫だって。 もし見つかったとしても上手く誤魔化せる自信があるんだ、だから心配しなくても平気さ」

「そんなの分からないじゃない……」

「分かるよ、上手くいく」

彼は真っ直ぐに私の顔を見てきている。
とても自信に溢れている顔だ。
だが、その顔はすぐに寂しそうな表情へと変わり、悲しそうな声で私に言ってきた。

「僕は……キミと会っていることが見つかって罰を受けることよりも、キミと別れてしまう時の方が怖い」

……前に話してくれていたのを覚えている。
妖精は人間よりも寿命がとても長いのだと。
私からすると長い時間も、彼にとっては私とのこの時間もあっという間の出来事なのかもしれない。
でも彼は、私とのこの時間を大切に思ってくれている。
そして、そんなに大切にしてくれているのに私は彼よりも先にこの世から居なくなって、彼を1人にしてしまうのだ。

「キミがいなくなる時、僕はどうなってしまうのかな……僕もキミと同じ所へ行こうとするのかな」

残される側の彼の気持ちはきっととても辛いものなのだろう。
私が想像しても、彼にとってはそれ以上の辛さなのかもしれない……でも。

「それは駄目よ、絶対に生きてて」

「キミはたまに酷なことを言うよね、僕にはその自信だけはないよ」

「……待っててほしいの、私のことを」

私がそう言うと、彼は不思議そうに首を傾げた。
それはそうだよね、この世にいなくなるのに何を待つのだと思うのは当然だと思う。

「あなたと同じになれるように、生まれ変わるから。 だから待ってて……そして生まれ変わった私をあなたが見付けてほしいの」

「……それは凄く難しくないかな?」

「大丈夫、だってあなたはエリートだもの。 きっと私のこと見付けてくれるわ」

彼は驚いた顔をしたと思えば、今度は苦笑いをした。
これは私からのあなたへの信頼しているという精一杯の言葉。
勘のいい彼ならきっと、私の気持ちも伝わったと信じている。

「本当にキミは、たまに酷なことを言うよね」

「そうだ、私はあなたとの出来事をこの紙にこれから書いていくから、私だと思った妖精に見せてよ。 見せたらあなたの事をきっと思い出すわ。 思い出す自信しかないの」

彼はずっと苦笑いをしている。
私にだって分かっている、そんなことは奇跡でも起こらない限り有り得ないってことを。
彼だって分かっているのに苦笑いをするだけで否定をしてこないのは、その奇跡が起きてほしいからだろうって思っている。

私の人生はただ平凡に生きて、それなりの歳まで生きれたら、もうこの世から去れたらいいなくらいにしか思っていなかった。
でも今は、彼と出逢ってしまったことで彼との時間がもっともっと欲しい……そう思うようになってしまった。
この短い人間の寿命が、今はとても憎くも感じてしまう。
限りある今この時間と来世の長い長い時間を、私はあなたと共に過ごしたい……そう、強く思っている。

「ねえ、大好きよ?」

今まで彼に一度も言ったことがない言葉を口にした。
彼の顔は相変わらず苦笑いのままだ。

「仕方ない、キミのためならキミを探すエリートにも僕はなろう」






【お題】君と出逢ってから、私は・・・

前日のお題(大地に寝転び雲が流れる・・・目を閉じると浮かんできたのはどんなお話?)が見事に間に合わなかったので、途中まで書いていた話をアレンジしました。

5/5/2022, 12:36:00 PM