またね
『今日もありがとうね』
静かに君との時間が終わろうとしていた
私は大好きな君に別れなんて言えなかった
だからもう一回会える期待だけさせて欲しい
また会えるよねって
伝えたかった
振り返り逆方向に向かう君に
私は深呼吸をして言った
『またね』
そういうと振り返って微笑んでくれる君に
私の鼓動は早まるばかり
泡になりたい
いつになれば私は貴方に振り向いてもらえるの?
そう思いますながら
彼を眺める
振り向いてもらえるかもわからない
だって隣には違う人がいるから
ねぇ知ってる?
人魚姫は結ばれなかったら泡になって消えるんだよ?
静かにプールに身を投げる
私の体は人魚になる訳でもないけど
静かにただ貴方を思い続ける
でも結ばれないと気づいたから
泡になって美しく消えたかった
ただいま、夏
また貴方に会える日が来た
あの日海を眺めた時から
どれくらい夏が来たのだろう
彼のことはまだ消えなくて
夏になると淋しくなる
今日も私は海へと向かう
いつも通りで何も変わらない
でも今日は違った
瓶に入った手紙を見つけたから
あの日のことが鮮明蘇る
貴方に会いたいと書いた日から全部
私は興味を持って瓶を開け
手紙を手で持ち
読んで見た
最愛の君へ おかえり
私はその紙を抱きしめた
彼の筆跡だったから
彼の笑う姿を思い出し
また海に向かって吐いた
ただいま
ぬるい炭酸と無口な君
『好きっ!』
私の中で炭酸が弾けて
溢れ返ったように
大声で君に想いをぶちまけた
でも君は反応をしてくれなかった
ずっと目を合わせるばかり
戸惑いもなくずっと見つめてくる
静かにぬるくなり炭酸も無くなってきた頃に
『俺も…』
と小さく呟いた
二人の心の炭酸はまたシュワシュワと強くなった
波にさらわれた手紙
『瓶に手紙を入れて海に流すと願いが叶うんだって』
幼い頃に君が話したおまじない
今も忘れることのできない思い出が
滝のように流れてくる
それはすべてが美しくて
触れれば消えてしまうような儚さを孕んでいる
永い眠りについた彼は
一体どんな夢を見ているのだろう
目の前にずっと続く地平線に私は息を呑む
まっすぐに進むそれに私は彼のことを重ねてしまうから
私は紙に一言だけ書いた
叶わなくていいからと
届いて欲しくて書いた
貴方に会いたい