時を止めて
ただ肩が触れた
茜色に染まった電車の窓に映る君は
天使のようだ
柔らかい頬が肩でふにゃりと変形する
触れようとしても
消えてしまいそうな顔に
なんだか怖くなった
睫毛の一本一本が光に映り白や金と変わる
ここにいるのは人間なのか?天使なのか?
なんでもいい
ただ…この時間が続いて欲しいから
お願い神様…
時間を止めて
キンモクセイ
微かに残った香りを抱きしめた
まるでキンモクセイの花束を抱えているような感覚だ
今日もいつものように残り香を探す
懐かしいあの香りを求めて
君は僕の初恋だった…
彼女の存在を感じれば酔ったような感覚に陥って
何度も求める
真実の愛が欲しかった僕を君は隠す
魅惑の香りで消して行く
まるであの世へ誘うように
行かないでと、願ったのに
神無月…
神が消える月…
きっと君は神だったんだよね?
月見れば千々に物こそ悲しけれ
我が身ひとつの秋にはあらねど
この秋は私一人の物じゃないのに…
貴方がいないだけで
月を見れば悲しさが増すだけ…
ねぇ貴方が戻る日を待っているの…
月を見て…ただ願ったのに
お願い…行かないで…
秘密の標本
「ねぇ知ってる?
理科室に一つ綺麗に飾ってある標本って
先生の宝物なんだって」
女子生徒たちが僕の宝物を見て呟く
もちろん…大切な宝物だよ
綺麗な昆虫達も動物達も
全部僕のコレクション
「先生ってどうして結婚しないんだろう…
年も年なのに…」
もう一人の生徒が呟いた言葉を聞いた僕の答えは一つ…
彼等こそが僕の花嫁であり子供でもある
それくらい愛してやまない物ってこと
もちろん君たちも
凍える朝
冷気で目が覚めた
手足が冷えて氷のように冷たい
冷凍庫に閉じ込められたような空気に
私は布団に閉じ籠りたくなる
静かにこちらに向かう音がする
氷の橋を渡るような音がして
息を潜めた
あの時から一体何年経っただろう
「冷凍保存実験成功」
ディスプレイに映された言葉を見ても
ピンとこなかったが
次第にあの時が蘇る
誰かに奪われた家族
金に溺れた親友
一筋溢れた涙もすぐに凍ってしまう
きっと
貴方の運命でさえも
凍っていつかは砕けるのだから