画面の向こうで笑う君の無垢な万能感は、
私が踏み外した奈落の深さなど一ミリも知らない。
正しい努力が報われる世界なら、
どうして私はここにいて、君はそこにいるの。
はるか先を歩く君の、無邪気な成功。
彼が手にした、当然のような未来。
それらが全て、
私の能力の無さを、私の存在の肯定を嗤っている。
君に選ばれたいと願うたびに、
私の真実は砂のように指の間から溢れ落ちた。
本当は、この絶望を君にぶつけてやりたい。
「私の人生を壊したのは君なんだ」と、
その余裕に拭えないシミをつけてやりたい。
けれどそう叫んだ瞬間に、
君の中の"綺麗な私"が死んでしまうことも知っている。
だからこそ私は嘘という名の檻に入り、
君のペースに飼いならされた従順な幻影になる。
このやり場のない怒りも、
この底なしの絶望も、
この惨めな自尊心も、
私が"私"であるからこそ抱え込まなければならない呪い。
ねぇ、これが私たちが選び取った、
最高に美しくて、最低に不条理な"幸せ"の形なんだね。
___不条理
あなたのためには、もう泣かないよ。
もう、泣けない。
___泣かないよ
鏡越しに背を向けたあなたは、
私の知らない「強さ」で武装していた。
かつての繊細で危うい少年の面影は、
私が愛してやまなかったあなたの姿は、
その鍛え上げられた肉体に跡形もなく消されてしまった。
吐き気のするような自己愛。
そして圧倒的な自己肯定感と揺るがない自信。
あなたにとって"美しい世界"の住人は、
今やあなた自身だけ。
私を突き放す冷徹さも私を繋ぎ止める甘い声も、
あの頃と何も変わらないはずなのに。
あなたは私の空白を暴こうとしているの?
それとも、私の弱さをその新しい指先で確かめたいだけ?
本当はね、誰よりあなたを呪いたいの。
その完璧な姿を、その冷たい余裕を。
そして何よりそんなあなたに選ばれたいと願う、
愚かな私自身の 尽きない「欲望」を。
___欲望
思いの大きさなど本当はそれほど関係ないのかもしれない。
呪いと呼べるほど深くても、
軽く掠めるだけの思い出ほど浅くても、
人は傷ほど大切に持ち歩いてしまうから。
どうして正しさや優しさを向けられた記憶ではなく、
傷や痛みの跡だけを何度もなぞってしまうのか。
なぜ切実で真っ直ぐな言葉より、
ふいに囁かれた嘘の方が何倍も胸に残るのか。
その答えに辿り着けたら、
私はあなたを否定できるだろうか。
きっと私は、
あなたの最大の欠点すら最大の美徳としてしまうんだろう。
私を変えたのはいつだって幸福ではなく痛みだったから。
____傷
夜の闇は前触れもなく、私と君をこの場所へ引き戻す。
始まりも終わりも分からなくなるぐらいの時間彷徨っても、
気づけば元の場所に戻ってしまう不思議なこの場所へ。
好きと口にすれば壊れてしまいそうで、
沈黙ばかり増えていった。
好きと口にすれば何かが生まれてしまいそうで、
距離だけが遠くなっていった。
もしももう一度君の目の奥を覗けるなら、
私はまた同じ道を選ぶのだろうか。
もしもこの結末を変えられないと知っても、
俺達はもう一度出会うのだろうか。
出口なんて、最初から探していない。
ただ、同じ場所に君がいると信じたかった。
私は、ずっと迷っていたい。
俺は、ずっと迷っていた。
君のいない明日が怖くて、君のいる今日が苦しかった。
___心の迷路