また会いましょう
綺麗な薔薇には棘がある、というがもしかしたら自分は棘がある薔薇を好んでいるのかもしれない。
だって、僕からの告白を受け
「ごめんなさい、紅茶は淹れたてにしか興味がないの。機会があったらまた会いましょう。」
と返した女性を好きになったのだから。
それにしても、また会いましょう…か。
自分みたいなのは無理だと思っていたが、あの時は気分が高まっていて、その場の空気に飲まれて告げた思い。
「また会いましょう」、なんて事ない言葉だけれど、僕にはその言葉が、その言葉を発する声が、雨上がりの花についた水滴の様に輝いて見えた。
スリル
私の彼氏は、どうしようもないクズだよ。
そんな事くらい周りに言われなくても分かってる。
すぐ浮気するし、殴るし、その上脅してくるし。
最近では優しくされる事なんてほとんどない。
いつか殺されるかもとすら思うし、私の秘密をバラされかけた事もあった。
でもね、多分君は知らない。
わざと私の弱みを掴ませた事も、わざと貴方の支配下にいる事も。
私は貴方の顔が好き。
今まで出会った中の誰よりも。
だから、そんな貴方に追い込まれて、私を壊されて。
殺されそうになって、ヒヤヒヤして。
それがたまらない。
貴方も一緒でしょ?
私を殴って、そんな顔してるんだもん。
周りになんと言われようと、私たちはちゃんと愛し合っている。
愛って人それぞれだもんね?
飛べない翼
飛べない翼は、ただの飾りでしかない。
そして、それはやがて錘となる。
その錘は、自身を不自由の籠へと閉じ込める。
数日前に拾った、美しいけれど飛べない翼をもつ小鳥を見てそう考えた。
結局のところ、見える形や表す形が違うだけで人間も小鳥も、みな同じなのだ。
ススキ
私が小学生の頃、家が近所で仲のいい幼馴染が居た。
その子は活発で、ちょっとアホで、でも誰よりも良い奴で。
彼と遊ぶ毎日はとても楽しくて、幼いながらに恋心を寄せていた。
けれど、小学四年生の夏休み。
家族と行った旅行先で、私はトラックに跳ねられ重傷を負った。
当たりどころが悪かったとかで、私を跳ねたトラックの運転手はそのまま逃げたそうだ。
私は長いこと意識が戻らなかったらしく、目を覚したのは事故から約二週間後のことだった。
私が目を覚した時、病室には誰もいなくて。
だから、一番最初に目に入ったのはベッド横にある棚の上。
私の大好きなフルーツや綺麗な花、学校の友達からの手紙などが置いてあった。
どれも心が温まるものばかり、でもそれらよりも私の気を引いたのは大きなススキだった。
「というか、普通はお花を持ってくるでしょ。」
びっくりはしたが、自然と元気になれた。
その後、看護師さんが私の目が覚めた事を知り、三十分もしないうちに家族が駆けつけた。
家族みんな私の無事を喜んだ。
事が落ち着いた時に聞いてみたのだが、ススキをくれたのはどうやら家族ではなく、近所に住む幼馴染らしい。
でも、私はどうしても彼のことを思い出す事ができなかった。
家族に彼のことを聞いても、顔をしかめ、合わせるばかり。
けれど、当時の私にソレを察する事はできなかった。
脳裏
いつも貴方といたい、いつも貴方を見つめていたい。
貴方に私だけを見ていてほしい、他の人を見ないでほしい。
とか、毎日考えていたりして。
そのたびに、
「愛が重すぎる、面倒くさい。」
なんて、貴方の言葉が脳裏をよぎる。
でも、それくらい貴方の事が大好きなの。
私はカフェでコーヒーを片手に、昔からの友人である千紗の相談に乗っていた。
彼女はいつもこうだ、愛が重い。
でも、私はそれが間違っているとは思わない。
愛の重い彼女が好きだから、悩んで私に縋る彼女が愛おしいから。
だからその欲望を彼女が我慢しないように、優しい口調で彼女に共感する。
やっぱり、愛の重さが違うって辛いよね。
愛が伝わらないのって悲しいよね。
「愛の重さが違って辛いのなら、いっその事押し潰しちゃえば?」
それで、それがトラウマになって、私しか愛せなくなれば良いのにな。
とか、毎日考えていたりして。
でも、それくらいあなたの事を愛しているの。