意味がないこと
ガードの固い人ほど、一度中に入らせちゃったら深いとこまで侵入させちゃうんだよね。
いつかは俺に堕ちるんだから、そんな建前の拒絶なんて意味ないのに。
一筋の光
私を途方のない暗闇の中に突き落としたのは貴方。
でも、その暗闇の中で一筋の光になってくれているのも貴方。
哀愁を誘う
お婆ちゃんの部屋の隅には、埃を被った木製のピアノが置いてある。
窓から入る太陽の光によって小さく照らされているそれは、お婆ちゃんが昔私に譲ってくれた物だ。
私はピアノに近づき、そっと撫でた。
指には埃の塊が付き、キラキラと散っていく。
昔、お婆ちゃんの演奏を見たのをきっかけに始めたピアノ。
当時はとても楽しくて、毎日の様にここでピアノを弾いていた。
けれど、お婆ちゃんが亡くなってからは何となく弾く気にはなれなかった。
それを見た私の母は「せっかく良いピアノを譲ってもらったのに勿体無い。」と言った。
それからと言うもの、好きでやっていたピアノを、いつしか「やらなきゃ」という義務感でやっていた。
しかし、楽しいと思えないモノが続くはずもなく、私がピアノを弾く事は無くなっていった。
お婆ちゃんとの思い出が詰まったこのピアノ。
長年放置されていたピアノには美しさと共にどこか寂しさを感じた。
と同時に、これはこのまま残しておきたいな、と強く思った。
鏡の中の自分
自分の顔なんて、写真や鏡でしか見た事がない。
けれど、カメラアプリや鏡によって顔は変わるし結局どれが本当の私なのか、私には分からない。
その中でも確かに分かるのは、残念ながら私は「顔が良い」部類の人間ではないという事。
でも、最近はこの顔も嫌いではない。
ずっと片思いをしている彼が、二週間程前にこの顔を「かわいい」と言ったのだ。
ただのクラスメイトとしてのお世辞かもしれないけれど、私はこのたった一言がとても、とっても嬉しかった。
恋はまるで魔法だと言うけれど、本当にその通りなのかもしれない。
だって、好きな人からのたった一言だけで、鏡の中の自分が前よりずっと輝いて見えたから。
鏡を見ては悩んでいたあの日々がずっと過去のことの様にさえ感じる。
ああ、ほんとに。
時々上手くいくから人生はやめられない。
眠りにつく前に
暗い寝室のベッドの上、私達を照らすのは窓から入る月光だけ。
私は毎晩、眠りにつく前に必ず「拓也、愛してるよ。」と彼に愛の言葉を伝える。
そして、彼から返ってくるのは毎回「うん。」の冷たい一言だけ。
…いつからだっけ。彼がわたしに背を向ける様になったの。
私と彼の間にはいつの間にか冷たく厚い氷の壁ができていた。
ああ、孤独だ。
なんて、今日も一日の終わりにそう考える。
明日もきっと。