ぱう

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哀愁を誘う

お婆ちゃんの部屋の隅には、埃を被った木製のピアノが置いてある。
窓から入る太陽の光によって小さく照らされているそれは、お婆ちゃんが昔私に譲ってくれた物だ。
私はピアノに近づき、そっと撫でた。
指には埃の塊が付き、キラキラと散っていく。
昔、お婆ちゃんの演奏を見たのをきっかけに始めたピアノ。
当時はとても楽しくて、毎日の様にここでピアノを弾いていた。
けれど、お婆ちゃんが亡くなってからは何となく弾く気にはなれなかった。
それを見た私の母は「せっかく良いピアノを譲ってもらったのに勿体無い。」と言った。
それからと言うもの、好きでやっていたピアノを、いつしか「やらなきゃ」という義務感でやっていた。
しかし、楽しいと思えないモノが続くはずもなく、私がピアノを弾く事は無くなっていった。
お婆ちゃんとの思い出が詰まったこのピアノ。
長年放置されていたピアノには美しさと共にどこか寂しさを感じた。
と同時に、これはこのまま残しておきたいな、と強く思った。

11/4/2024, 11:02:51 AM