百合

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5/12/2025, 5:01:45 PM

ただ君だけ

大学生の時、片思いしていた人と偶然居酒屋で出会った。
サークルの先輩だったけど、2年の差は思っていた以上に大きくて、あの頃は遠くから見ることしかできなかった。だから先輩が私の名前を覚えているはずもなかったが、朧げな記憶からなんとか見つけ出してくれて無難な話してくれたのはとても嬉しかった。
2人ともお酒が入っているからかすんなりと話は進んで行って、いつのまにか出掛ける予定が成り立っていた。
酔っていたこともあり、夢と現実がよく分からなくなって当日まで信じられなかったが、家まで車で来てくれた時に流石に現実だと認識した。
その日は特に何事もなく終わって、でも取り止めのない話もお互いに楽しかったから次の予定も決まった。
3回目の時、流石に何かあるかなぁ、あってほしいなぁと思いながらおしゃれなバーで待ち合わせをした。
扉を開けて先輩を見つけた時、何か思っていたのとは違う空気を感じた。明らかに先輩の表情は暗く、なぜか少し悲しそうだった。
どうしていいのか分からず、つい大学の時の癖で
「お疲れ様です」
と声をかけた。
すると先輩は少しだけ微笑み、
「おつかれ」
と返してくれた。
違和感を感じつつも私は席について近況報告を始めた。
先輩に言葉を発させたら何か崩れるような気がしたから、意地でも喋り続けた。
でも2週間前にも会って話したばかりだからそこまで言うこともなく、1人語りは途切れてしまった。
なんとかして次の話題を…と言葉を絞り出そうとした時、先輩は重い口を開けた。
「海外…海外に転勤になった」
そう言った先輩は私の方を見ずにただグラスだけを見つめていた。
私は海外への転勤は今後の出世、キャリアアップに繋がると居酒屋で再会した時に言っていたのを思い出した。
本来ならば先輩にとって喜ぶべきことなのに、たった2ヶ月でこんなにも悲しそうな話に変わってしまうのかと思うと同時に、そうさせてしまったのは私のせいなのかもしれないと嬉しいはずの悲しい予想が出てきてしまっていた。
大学生の時から好きだった、憧れてた、もう二度と会えないと思っていた先輩。
そんな先輩ともしかしたらの未来を描いてしまった私の罰かもしれない。そう思ったら私の返す言葉は一つしか見当たらなかった。
「…そうですか。寂しくなりますけど、頑張ってくださいね。応援してます!」
我ながら酷すぎる答えだったと思う。こんな誰も救われない言葉があっていいものかとも思った。でもこれが私にできる最大の先輩への愛情表現だった。
私の言葉を聞いた先輩は少し止まったあと
「そうか…。ありがとう」
とまた私に微笑み返した。
私が見たかった先輩の顔はこんな悲しい顔じゃない。私を見て幸せそうに笑う先輩を見たかった。
そんな叶いもしない願いにそっと蓋を閉じて、私はバーを後にした。いつもは送ってくれる先輩も、この日だけはその優しさを見せてはくれなかった。むしろ送らない選択は優しさだったのだと思う。

そして私は先輩の卒業式に封印した恋心を、2ヶ月だけ開いて、また閉じてしまった。
おそらくもう開くことは二度とない。
そもそもこんなに苦しくなるくらいなら開けなければよかった。
でも、叶わないと分かっていても先輩だけを見つめていた私が存在していたことだけは、私は認めてあげたいと思う。

5/8/2025, 2:31:09 PM

届かない…

3回生はかっこよく見える。
もはや大学における通説のようなものに私は見事に踊らされていた。
サークルは同じだけど自分とは関わりのなかった先輩
最初はなんとも思っていなかった。けど偶然同じ授業をとっていて、先輩を見つけた時に何故か嬉しくなってしまった
それから授業のたびに先輩を探して、話せもしないのにその授業が楽しみで仕方がなかった。
その授業も今日で終わってしまう。
そして来週には先輩はサークルを引退する。
そうすればもうサークルには来なくなるし、見かけることもほとんどなくなってしまう。
先輩のことが好きなのかははっきりとわからないけど、このままは嫌だという気持ちはわずかながらにあった。
前の授業が終わってその授業の教室に移動する。
開始までまだ5分あるというのにそわそわして仕方がなかった。
10秒ごとに周りを見渡す。教室の扉が開くたびにそっちを見る。
授業開始のチャイムが鳴って、先生がマイクで話し始める。
それでも扉はもう開く気配がなかったし、後ろの方で座っている様子も確認できなかった。
すると先生が「こんな日によく来たね」と私たちに向かって言った。なんのことかと思いスマホを見ると時間の上に今日の日付が見えた。
「12月24日」
大学は26日まで普通にあったから全くもって気づかなかった
そうだ…今日クリスマスイブだ

この後の先生の話なんか入ってくる気はしなかったが、私は文字で溢れているプリントを見るために下を向いた

5/6/2025, 4:22:53 PM

ラブソング

私の歌書いてみてよ
学園祭での演奏準備をしている彼にそう言ってみた
すると彼は
君を歌の枠におさめたくないから書かない
と真剣に答えた。冗談のつもりで言ったから、意外と真剣に答えられて驚いたが、彼の言葉は嬉しかった。
最後まではっきりとは言わないロマンチスト気取りだと分かっているから私は、歌にしたら終わりが見えてしまうような気がして嫌だから歌にはしないと彼の全ての気持ちを自分の中で解釈することにした。

あれから8年
彼は今、人気バンドグループのボーカルとして活躍している。
彼が作曲するラブソングは心当たりがあった。というか心当たりしかなかった。
夜2人で散歩しながら見た桜が普段よりも美しかったこと
喧嘩した時買ってきたプリンが苦手な抹茶味で、より激しくなったこと
彼からもらったネックレスだけ置いて二度と戻らなかったこと
私と彼と思い出が数年越しに歌となって表れていた
私の歌書いてみてよ
彼はこの提案を8年越しに受け入れた。
私が言ったことだから怒る理由も悲しむ理由も私にはない
でも、ひとつだけわがままを言うとしたら
歌じゃなくて思い出のままにしてほしかった

4/26/2025, 1:09:04 PM

7時のアラームを止める
起きて、顔を洗って、朝ごはんを食べる。
洗顔と化粧、着替えをして走って駅へ向かう。
20時まで仕事をして買い物をして帰る。
夕ご飯を作って、食べてお風呂に入る。
明日の予定を確認してから電気を消して寝る。

これがずっと変わらない私のルーティン
でもひとつだけ変わったことといえば、お酒をやめたということ。
1年前。飲酒運転の車に轢かれて亡くなったあの人を見たときから、私は好きだったお酒を、彼と飲んだお酒を見ることさえもできなくなった。
ものすごく仲が良かったわけでも、悪かったわけでもなかった。
でもいざいなくなると喪失感というものが現れてくるし、どこかで彼を探してしまう。
朝から彼のことを思い出す日は決まって調子が良くない。
電車に乗り遅れるし、小さなミスをするし、欲しかった食材がなくなってがっかりする。
今日もそんな調子の良くない日だった。
なんとか家に帰ってきてカップ麺でもいいかとお湯を沸かし始めるとインターホンが鳴った。
9時前だったからこんな時間に?と思いつつも、はーいと玄関を開ける。
すると宅急便のお兄さんが立っていた。何か頼んだっけ?と思いながらサインをし荷物を受け取る。
お湯が沸いたから入れに行こうと思ったが、宛名にふと目がいった。そこには私の名前ではなく彼の名前が書かれていた。
彼の名前を見た私は我を忘れてダンボールを無理矢理開けた。
中身は見覚えのあるものだった。
人気すぎて1年待ちのお酒。彼と一緒に選んだお酒。
今私が1番見たくないお酒だった。
送られてきたこのお酒に悲しむことも怒ることもできず、ただやるせない気持ちでいっぱいだった。
捨てようかとも思ったが、なんとなくもったいない気もして、でも取っておくのも違う気がした。
とりあえずカップ麺にお湯を入れ待っている間に、奥にしまい込んであったグラスを引っ張り出してきた。
お揃いで買ったものだからなんとなく2つ出してみる。
そして2つのグラスにお酒を注いでみた。
口元にグラスを持ってきたとき、お酒の匂いでぶわっと何か感じるものが来て目に涙が溜まった。
その涙をこぼさないようにグラスを一気に傾けた。
おかしいな、上向いたはずなのにそう思いながら、涙が流れていくのを静かに感じた。
目をそっと開け、もう1つのグラスを見たとき彼の手が見えたような気がした。そしててだけじゃなくて、体、顔、声。彼の全てが隣にあるような気がした。
「あぁ…ここにいたのね」
私は久々に笑ってみせた。

それからまたお酒がルーティンの中に組み込まれた。
私の人生を狂わせたお酒をもう一度好きになるには時間がかかるかもしれない。
でも飲んでいる時だけは彼がいるような気がする
そう思って私は2つのグラスにお酒を注ぐ





4/21/2025, 7:56:25 AM

星明かり

3年前から散歩に行くのが習慣になった。
朝はめっぽう弱いので、夜ご飯を食べ終わって気持ちよくお風呂に入るために9時ごろ携帯と鍵だけを持って行く
親からは危ないからと止められたり、友人からは1人で散歩って楽しいのなどと言われたりした
自分でもどうして1人で散歩をしようと決意したのか覚えていない
ただ、1人で歩くと何も考えずに済むし、夜はじぶんを飾らないで歩くことができる
危ないけれどできれば暗めがいい。自分の姿がバレてしまうから月明かりさえもいらないと思えてくる。
星明かりだけを頼りにして私は今日も外に出る

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