ラブソング
私の歌書いてみてよ
学園祭での演奏準備をしている彼にそう言ってみた
すると彼は
君を歌の枠におさめたくないから書かない
と真剣に答えた。冗談のつもりで言ったから、意外と真剣に答えられて驚いたが、彼の言葉は嬉しかった。
最後まではっきりとは言わないロマンチスト気取りだと分かっているから私は、歌にしたら終わりが見えてしまうような気がして嫌だから歌にはしないと彼の全ての気持ちを自分の中で解釈することにした。
あれから8年
彼は今、人気バンドグループのボーカルとして活躍している。
彼が作曲するラブソングは心当たりがあった。というか心当たりしかなかった。
夜2人で散歩しながら見た桜が普段よりも美しかったこと
喧嘩した時買ってきたプリンが苦手な抹茶味で、より激しくなったこと
彼からもらったネックレスだけ置いて二度と戻らなかったこと
私と彼と思い出が数年越しに歌となって表れていた
私の歌書いてみてよ
彼はこの提案を8年越しに受け入れた。
私が言ったことだから怒る理由も悲しむ理由も私にはない
でも、ひとつだけわがままを言うとしたら
歌じゃなくて思い出のままにしてほしかった
5/6/2025, 4:22:53 PM