冷たくなった君の手に触れる。いつも感じていた温度はもうそこにはなくて、君の質量だけは何となく感じられた。君がやがて朽ちて灰になるなど、未だに想像がつかない。ずっと君は傍にいると思っていた。ずっとその体温は温かいのだと思っていた。今はただ、君がいないという事実だけが僕に覆いかぶさっている。心はずっと叫んでいる筈なのに、涙は一滴も流れない。もし君がいなくなったのなら、僕は枯れてしまう程に泣き叫んでしまうと思っていたけれども、現実として起こるとまるで何も出てこない。僕は君を想っているのに、どうして何も出てこないのだろうか。いっそこの身が朽ち果てるその時まで、泣き叫んでいられたら良かったのに。
[声が枯れるまで]
その日、いつもよりやけに強い風が吹いていたのを覚えている。木々が揺れ動き時々葉が散ってゆくその下で、僕らはいつも待ち合わせをした。ここの景色は来る度少しづつ変わっていき、何時だって季節の移り変わりを感じさせられた。来る度に、これが最後になるかもしれないとお互いに思うけれども、いつも君は次を信じて僕と約束するのだ。初めてあった日も、約束を初めて持ちかけてきたのも、僕がこうやって生きようと思えたのも、いつも君がきっかけだったんだ。
[始まりはいつも]
ずっと引き出しの中に仕舞われている、小さなオパールが埋め込まれたネックレス。数年前の今日、私への誕生日プレゼントとしてあなたがくれたそれは、今だにそこに置かれたままだ。私に明るい未来があるように、そんな願いを込めたと言って私の首にかけてくれたね。それだけが、その時から今までの私の支えだったんだ。
[忘れたくても忘れられない]
こちらを睨みつける人々に囲まれながら、私はただ目の前にいる人物にだけ意識を向けていた。たった一人だけ、周囲とは全く違う目をしている。まるでこちらの真意を全て見透かしている様な目だ。その視線は私を貫くかのように私だけに注がれている。
[鋭い眼差し]
遠くを目指し、手を伸ばす。掴むにはあまりに遠すぎるそれを捕まえようと、手を伸ばす。近づくために上っていきさらに高く進んでいく。目指すものはまだ遥か先に。それでも、届くと信じて手を伸ばす。
[高く高く]