【あの夢のつづきを】
俺は一度、夢を諦めたことがある
きっかけは本当、些細なことだった
正直、その時はそれが最善だと本気で思っていた
あいつらには何も告げず、俺は舞台から去った
あいつらの居ない日常にもやっと慣れて来た頃
ふらっと、立ち寄った劇団で演劇を見た
出来たばかりで素人レベルの演劇だったが
ふと、自分が“自分だったら…”
“あいつらとだったら…”と考えていることに気づく
(あれ、俺、こんなに演劇、好きだったっけ?)
そう思ったら、居ても立っても居られなくて
気づいた時にはあいつらのいる劇団に走っていた
扉を開けるとあいつらが俺の方を見ている
「今更、何しに来た」
『ごめんなさい、都合が良い
自分勝手だってことは分かってる
二度とこの劇団に関わるなと言うならそうする
それでも、俺はお前らと
もう一度あの舞台に立ちたい』
あいつらと俺の間に緊張が走る
「…もう、俺たちを置いて行かないと誓うか?」
『っ…誓う、誓うよ』
「…おかえり」
『…ただいま』
(ありがとう、こんな俺をもう一度受け入れてくれて)
「それはそうと、なんで劇団を抜けたんだ?」
『あっ…えっと…その…』
「はぁ⁉︎‘脅迫文が届いてた’だ⁉︎」
『うん…‘俺が辞めないと劇団ごと潰す’って』
「ばっか!そう言うことは先に言うんだよ‼︎」
『ごめん、前々からそう言うの結構あったから…
それに俺のことでお前らのこと巻き込むの
なんか、申し訳なかったし…』
「俺が厳しい過ぎたかもとか
変なこと考えたって言うのに…お前は💢」
『それは、ごめん…』
「二度とそう言うことするなよ!絶対だぞ!」
『分かったよ』
ありがとう、俺のことを受け入れて
俺にあの日の夢の続きを見させてくれて
やっぱり、お前らといるのが一番良いや
【あたたかいね】
ボクは春が嫌いだ
ボク自身が冬の精であるからというのも大きいだろう
春になれば暖かな陽気に当てられて
ボクたちは消えてしまう
つまりはボクは消えたくないから春が嫌いということ
冬が永遠に続く様に今日も春の精たちを氷漬けにする
こうすれば、永遠にボクらの季節だ
そう思っていたのに、あいつは突然ボクの前に現れた
能天気でどこまでも明るいそいつは
ボクにとって不愉快極まりない奴だった
そいつは春の精の中でも落ちこぼれと有名だった
それこそ、ボク自ら氷漬けするまでもないほどに
あいつは最後にするとしよう
落ちこぼれに何か出来るというんだ
そう思った
ただ、あいつと出会ってからというもの
あいつは毎日のようにボクのもとに来る様になった
面倒だから適当に相手して帰す
あいつなどいつでも氷漬けに出来る
そう思っていた矢先、他の精たちによって
ひとりまたひとりと消えていき
残すはボクだけとなった
正直、他の精たちが協力し合って
向かってくるとは思いもしなかったが
ボクにはそんなこと関係ない
ただ、追い返すか氷漬けにするだけ
そう思っていたのに
どうやら、ボクは少し舐めていたらしい
ボク相手にここまでするとは思いもしなかった
じりじりとあいつらが近づいてくる
ボクらの時代も終わりかと
そう思った
「だめだ!」
あいつの声が響く
いつも能天気なくせに
ボクはお前を馬鹿にしていたのに
なんで、なんでそんなお前がボクを庇うんだよ
あいつらの攻撃があいつに届く瞬間
ボクはあいつを押し飛ばした
次、目を覚ました時にはあいつの泣き顔があった
『そっか、ボクが嫌い避けていたものは
本当はこんなにもあたたかいものだったんだね』
「だめ、消えちゃやだよ」
『大…丈夫、少し、眠りに…着くだけ、だ
ありがとう、またな』
「っ…うん、うん、またね…おやすみ」
今年も季節は巡る
沢山の思い出を携えて
【未来への鍵】
僕らは生まれながらに
それぞれ自分だけの金属の塊を持っている
それは大きかったり小さかったり
綺麗に整えられていれば歪な方をしていたりしている
その金属の塊を人生という中で
叩いたり削ったり溶かしてみたりして
自分だけの未来へと繋がる鍵を作り出す
この世界の何処かへ存在する
その鍵がぴったりはまる鍵穴を探して
前へ前へと突き進む
鍵穴はまだ、見つからないけど
本当に存在しているかも分からないけど
それでも、この鍵を握りしめて
未来へと僕らは進んで行く
【星のかけら】
昔、見た、あの流星群
ただ綺麗だとそう思った
整理している瓶の中に一つ
色とりどりの綺麗な何かが入っているのを見つけた
『師匠、この瓶に入っているのは?』
「それは“星のかけら”だ」
『星のかけら?』
「そうだ、数百年に一度の流星群の日に
空から降ってくる星が地上に落ちたもの
それが星のかけらだ」
『へぇ〜綺麗だね』
「綺麗だけで済んだら良かったんだがな」
『どう言うこと?』
「いいか、星のかけらは叶え星とも呼ばれる
それは、手にした者の願いを叶え星一つにつき
一つだけなんでも叶えるからだ
ただ、非常に脆い、地上に落ちた時に
割れない方が奇跡とも言われるほどだ」
『割れたらどうなるの?』
「それはもう叶え星ではない、ただの石になる」
『そっか、いつか僕も見つけられるかな?』
「あぁ、きっと、きっとな」
あれから何十年何百年と過ぎていった
今日は、流星群の日
師匠、見ていますか
周りには石が転がる中、ただ一つ美しい光を放つ
“それ”がそこにはあった
『…あった、星のかけらだ』
慎重に丁寧に瓶の中に入れる
ふと、向こう側に一際光を放つものを見つけた
なんだと近づくと、そこには星のかけらと同じ様に
美しい光を放つ髪を持つ子供がいた
『何故、こんなところに子供が…
ひとまず連れて帰ろう』
連れ帰ってみて、驚いた
その子供が僕の幼い頃にそっくりだったからだ
髪の色も、背丈も、何もかも
そして、思い出した
僕には師匠と出会う前の記憶がないこと
気づいた時には師匠のところにいたこと
あの流星群の日の記憶だけが
脳裏にこびりついて離れないこと
きっと、師匠は知っていたんだ
僕がこの子と同じ存在ということを
僕がこの子を連れ帰ったのと同じ様に師匠も
あの流星群の日にきっと、僕を連れ帰ったんだ
〈「“君の行く末に幸あれ
いつまでも見守っているよ、私の可愛い弟子”」〉
『師匠…僕、この子を育てるよ
師匠が僕にしてくれたみたいに
だから、僕の僕らの行く末を見守っていてね
大好きだったよ、師匠』
【追い風】
俺は昔から速さだけが取り柄だった
これだけは誰にも負けない、負けたくないと思った
だからこそ、小中と陸上に取り組んだ
この足の速さは俺の生まれ持った才能なのだと
信じて疑わなかった
でも、高校に入った春、俺は世界の広さを知った
ここにはバケモノみたいな奴がごろごろ居るのだと
自分は足が少し速いだけの平凡な奴なのだと知った
それでも、走ることを諦められなかった
俺はこのバケモノみたいな奴に本気で勝ちたいと
そう思った
高校、最後の大会
みんなが、仲間達が繋いでくれた託してくれた
最終レーン、俺は最後の力を振り絞る
『はぁはぁはぁ…』
(ここにきて追い風とはな、天は俺の味方って訳か)
「「「「「「「「「いっけー!」」」」」」」」」
『くっ、はぁはぁはぁ…』
(あと一歩、少しでも前へ!届け!)