【あたたかいね】
ボクは春が嫌いだ
ボク自身が冬の精であるからというのも大きいだろう
春になれば暖かな陽気に当てられて
ボクたちは消えてしまう
つまりはボクは消えたくないから春が嫌いということ
冬が永遠に続く様に今日も春の精たちを氷漬けにする
こうすれば、永遠にボクらの季節だ
そう思っていたのに、あいつは突然ボクの前に現れた
能天気でどこまでも明るいそいつは
ボクにとって不愉快極まりない奴だった
そいつは春の精の中でも落ちこぼれと有名だった
それこそ、ボク自ら氷漬けするまでもないほどに
あいつは最後にするとしよう
落ちこぼれに何か出来るというんだ
そう思った
ただ、あいつと出会ってからというもの
あいつは毎日のようにボクのもとに来る様になった
面倒だから適当に相手して帰す
あいつなどいつでも氷漬けに出来る
そう思っていた矢先、他の精たちによって
ひとりまたひとりと消えていき
残すはボクだけとなった
正直、他の精たちが協力し合って
向かってくるとは思いもしなかったが
ボクにはそんなこと関係ない
ただ、追い返すか氷漬けにするだけ
そう思っていたのに
どうやら、ボクは少し舐めていたらしい
ボク相手にここまでするとは思いもしなかった
じりじりとあいつらが近づいてくる
ボクらの時代も終わりかと
そう思った
「だめだ!」
あいつの声が響く
いつも能天気なくせに
ボクはお前を馬鹿にしていたのに
なんで、なんでそんなお前がボクを庇うんだよ
あいつらの攻撃があいつに届く瞬間
ボクはあいつを押し飛ばした
次、目を覚ました時にはあいつの泣き顔があった
『そっか、ボクが嫌い避けていたものは
本当はこんなにもあたたかいものだったんだね』
「だめ、消えちゃやだよ」
『大…丈夫、少し、眠りに…着くだけ、だ
ありがとう、またな』
「っ…うん、うん、またね…おやすみ」
今年も季節は巡る
沢山の思い出を携えて
1/11/2025, 1:18:58 PM