川辺に腰をおろすと、サラサラと聴き心地の良いせせらぎが聴こえてくる。
しばらく、その音を聴きながらぼーっと川を眺めていた。
ふと、隣の地面に目を遣ると青白く小さな花が咲いていた。
以前本で読んだことがあった。
確か、勿忘草という名前だったはず。
ーーー昔、ヨーロッパで1人の騎士が、恋人のために花を摘もうとして川に落ちてしまい、その花を恋人に託して『僕を忘れないで』と言い遺して沈んでしまった。
恋人はその花を【勿忘草】と名付けて生涯その勿忘草を身につけて恋人を忘れなかったーーー
悲恋であると共に、亡くなった恋人を忘れず生涯を貫いた女性の強さを感じた話だった。
小さな花が風に吹かれてそよそよ揺れている。
周りには他の勿忘草はない。
その一株だけがそこにいた。
自分の存在を、主張しているように思えた。
「・・・僕を忘れないで、か。」
優しくその花に触れてみる。
ほんの少しあったかい気持ちになれた。
その後、週に1回その川辺に来るようになり、あの勿忘草の隣に座って花を愛でたり景色を一緒に眺めたりするようになった。
まるで恋人と通いデートをしている気分だ。
・・・もし、枯れてお別れになってしまったら同じ花を買って育てよう。
名前の由来になったかの女性のように、ずっとその花をそばに置いておこう。
『勿忘草ー花に恋した話ー』
ゆれる、ゆれる
ゆれて、ゆれて、いつかあの空まで届くかな
一際大きく揺れた時、そのまま飛んでいけそうな気がした
あの青いばかりの気持ちのいい空
飛んでいけたらどんなに楽しいだろう
鳥と一緒にどこまでも飛んで行けたら
飛行機と一緒ならいろんな国に行けるのに
ロケットと一緒なら宇宙にだって行けるのに
でも、いつも届きそうになったらすぐ地面に戻ってしまう
降りた時、また遠くなってしまった空を見て
くやしい、残念と口を尖らせてもう一度乗る
今度こそ空に届いてやるんだと勢いよく体を揺らす
ゆれる、ゆれる
ゆれて、ゆれて、あの空へ
人生は旅と同じだとよく言われる。
山を登り、谷を下り、時に回り道をさせられたり、壁によってその道を断念したり。
それらは全て経験であり、何一つ無駄なものはない。
後々自分の役に立つのだと。
だから、しっかり自分の道を歩んで行くのだと。
今、自分の歩いてきた道を振り返ってみる。
お世辞にも綺麗な道ではない。
回り道ばかりで効率が悪く、少し行っては諦めて、中途半端な行き止まりになったところがたくさん。
今だって、本当にこの道に行きたかったのかと問われると自信をもって言えない。
いろんなものを諦めて、妥協してきた道のように思う。
このまま行ったその旅の果てはどんなものなのだろう?
本当にこのままでいいのか?
でも、今から変える度胸もない自分は今日もこの妥協の道を行くのだろう。
人生が終わる時、自分はその旅路の果てで何を思うだろうか。
「こんにちは!お届けものです!」
今日も僕は荷物を誰かに届けている。
北へ南へ、西へ東へ。近くから遠くまで。
僕たちは、ただ荷物を届けているわけじゃない。
その荷物には、依頼主の届け先の人への気持ち、心が込められている。
『元気にしていますか?』
『大好きだよ』
『頑張って』
『見守ってるよ』
そばにはいられない代わりに、荷物にありったけの真心、愛情を詰め込んで僕らに託す。
託された僕らはどんなガラス細工よりも丁寧に繊細に扱って責任を持って運ぶ。
人の心と心を繋ぎ止める、または一度切れた心の糸を再び繋げる大切な仕事。
責任重大だし大変ではあるけど僕はこの仕事が大好きだ。
だから今日も僕は運ぶ。
誰かの思いを、まだ見ぬあなたに届けたい。
《縁結びの運び屋》
「・・・月が、綺麗ですね。」
静寂に包まれた夜。
丘の上は君と僕以外誰もいない。
初めて会ったその時から、君に惹かれていた。
キラキラと輝いて、優しく明るい君。
どんなことにも全力投球、真摯に向き合う姿勢が格好いい。
たまにドジ踏んでしまうことも君が完璧ではなく、人間なのだと思わせてくれてより愛おしくなる。
話しかけるまでに随分かかってしまった。
言葉もあまり上手く言えていなかったかもしれない。
それでも、君は眩しいくらいのあの笑顔で答えてくれた。
会話を重ねて、一緒に行動する機会が増え。
そして、今、ここに立っている。
でも、臆病な僕はその気持ちをはっきり言う度胸が無かった。
だから、かの文豪の言葉を借りてしまった。
君は、気づいてくれるだろうか。
もう、君しか見れない。君のことしか考えられない。
心が君だけでいっぱいでとめどなく想いが溢れてくる。
君は一瞬キョトンとした顔をした。
その後、少しだけ顔を紅くしたように見えた。
その顔に僕の心臓は更に鼓動を上げていく。
僕の気持ちの行方は、月のみぞ知るーーー
『I Love・・・』