小学生の時の話
その日は夏休み中で、例年を超える猛暑日だった。
一歩外に出れば雲一つない空からギラギラジリジリと太陽の光が突き刺さる。
コンクリートからの照り返しも合わさってさながら灼熱地獄だった。
多分、お昼頃だったと記憶している。
用事を終えた帰り道。道の先は、ゆらゆらと揺れて、空間が捻れているように見える。
帽子をかぶっている意味がないぐらいの暑さ。
全身が汗だくだった。
(早く帰ろう・・・。)
足を速めようとしたその時、目の前にそれは現れた。
本当に、音もなく、突然。
それは、黒い何かだった。目の前すぎて全体がわからなかったがなんとなく、人だという感覚があった。
さっきまで何もなかったし、ここは曲がり道もない。建物から出てきた音や気配もなかった。
・・・一体どこから?どうやって?
そう考えた時、背中がスーッとひんやりしていくのがわかった。
怖くて動けない。声も出ない。というより、出してはいけない気がする。
あれだけうるさかった蝉の声が全く聴こえない。
ーーーいつまでそうしていただろう。
実際はそこまで経ってないかもしれないがもう何時間も経っているように感じた。
黒い何かも全く動かないけど、こっちをじっと上から見下ろしている気がした。
(どうしよう、どうしよう)
動かない身体とは逆に内心はパニックしっぱなしだった。
その時、
『一緒に帰ろう』
「!?」
上から声がかかる。男の人にも、女の人にも、お年寄りにも、子供にも、どれにも聴こえる不気味な声だった。
反射的に顔を上げる。
輪郭は人の顔だった。でも、逆光のせいで表情がわからなかった。
「あっ・・・」
ほんの少し後退る。すると、また、
『一緒に帰ろう』
声がかかる。見えない顔がニタァと笑った気がした。
その瞬間、弾かれたように後ろを向いて全速力で走った。
無我夢中でどの道を通ってきたかなんて覚えてない。
家に入ってすぐ鍵をかける。
家族に声もかけずにそのまま自分の部屋に行って布団に潜る。
ガタガタと震えながらしばらく布団から出られなかった。
そして、いつのまにかそのまま寝てしまい、気づいた時には朝だった。
その後家族に色々訊かれたけど適当に流した。
それから数日はアレにまた出会うかもと外に出られなかったけど、しばらくすればその時の恐怖も薄れていつのまにか忘れてしまった。
十数年立った今、ふとあの時の記憶が蘇った。
今思い出しても背筋が寒くなる。
結局アレはなんだったんだろう?
【逆光のナニカ】
こんな夢を見た。
水の中を、ゆっくり沈んでいく。
少しずつ、少しずつ、光が遠くなっていく。
抗うことなく、ただ、流れに身を任せて、水底に沈んでーーー
ハッと目を開けると目の前には雲一つない空。
太陽が優しく光を注いでいる。
周りを見ると草原に横たわっていた。
心地いい風が吹く。
ゆっくり立ち上がる。
周りは何もない。ただ草原だけ。
おもむろに、風が吹いている方向に歩き出す。
風とそれに吹かれる草の音だけが響く。
しばらく歩いたら、目の前に誰かが立っていた。
ただ、じっと立っている。
誰だろう?そう思い、足を速める。
しばらく走った。途端、止まる。
頭が真っ白になった。信じられなかった。
気づけば、涙が流れていた。
目の前にいたのは、もう、会えないはずの友人だった。
あの時と変わらない笑顔でそこに、いた。
『会いたかったよ!』
そう叫びたかったのに、声が出なかった。
それどころか、さっきまで動いていた体も固まってしまった。
パニックになっていると、友人の口がゆっくり動くーーーそこで目が覚めた。
夢であったことに絶望して、うなだれる。
友人が何を言おうとしていたのか、それもわからないままだ。
「タイムマシーンがあったらどこに行きたい?」
以前、友人から尋ねられた。
あの時は、すぐには答えられずウンウン唸るだけだった。
・・・今なら、すぐに言える。
君がいたあの時に戻りたい。
笑って、泣いて、喧嘩して、思い出を分かち合っていたあの日々に戻りたい。
君がいない今は色褪せて、乾燥して、淋しくて、辛い。
楽しかったことが君がいないだけでつまらない。
どこに向かえばいいのか、なんのために歩くのかさえわからなくなった。
戻りたい。君がいたあの日に。あの日々に。
君はきっと、自分の分までと言うかもしれない。
でも、今は、まだ、歩けそうにない。
会いたい。会いたいよ。
タイムマシーンよ。どうか連れてって。
自分の片割れのような存在だった大切な、大切だった、たった一人の親友のところへ。