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川辺に腰をおろすと、サラサラと聴き心地の良いせせらぎが聴こえてくる。
しばらく、その音を聴きながらぼーっと川を眺めていた。

ふと、隣の地面に目を遣ると青白く小さな花が咲いていた。
以前本で読んだことがあった。
確か、勿忘草という名前だったはず。

ーーー昔、ヨーロッパで1人の騎士が、恋人のために花を摘もうとして川に落ちてしまい、その花を恋人に託して『僕を忘れないで』と言い遺して沈んでしまった。
恋人はその花を【勿忘草】と名付けて生涯その勿忘草を身につけて恋人を忘れなかったーーー

悲恋であると共に、亡くなった恋人を忘れず生涯を貫いた女性の強さを感じた話だった。

小さな花が風に吹かれてそよそよ揺れている。
周りには他の勿忘草はない。
その一株だけがそこにいた。
自分の存在を、主張しているように思えた。

「・・・僕を忘れないで、か。」
優しくその花に触れてみる。
ほんの少しあったかい気持ちになれた。

その後、週に1回その川辺に来るようになり、あの勿忘草の隣に座って花を愛でたり景色を一緒に眺めたりするようになった。
まるで恋人と通いデートをしている気分だ。

・・・もし、枯れてお別れになってしまったら同じ花を買って育てよう。
名前の由来になったかの女性のように、ずっとその花をそばに置いておこう。

        『勿忘草ー花に恋した話ー』

2/2/2026, 5:24:19 PM