あなたがいたから、
もう少し生きてみようと思えた。
あなたがいたから、
この世界に希望の光が見えた気がした。
あなたの笑顔だけで、
どんなことだって頑張れると思えた。
あなたのその声で、
嫌なことも全部忘れられる気がした。
それなのに。
どれだけ手を伸ばしても、触れることはできない。
どんなに頑張っても、あなたの隣は私じゃない。
それでも、あなたが大好きだった。
あなたが生きる意味だと、伝えたら笑うかな。
〜あなたがいたから〜
仕事の帰り道、ふと道沿いの花屋が目に留まる。
数多くの花がカラフルに並べられているけれど、
ひとつひとつの花は周りに負けることなく
輝いていて。
そんな姿に惹かれて足が止まった。
たまには…
たまには花でも買ってくか、
今日は記念日でもなんでもないけど。
アイツ、花好きだもんな。
──なにかお探しですか?
「…恋人に贈る花が欲しくて」
口に出して、急に恥ずかしくなった。
何でもない日に花を買っていくなんて。
──丁寧に包まれた花を持って俺は再び帰路に着く。
俺が手に持っているのは、一輪の赤いバラ。
花言葉は【愛情】、彼に送るにはピッタリだ。
喜ぶアイツを想像しながら玄関の扉を開けた。
『おかえり〜!』
「ただいま」
扉が開く音を聞きつけて来たのか、パタパタと近づいてくる彼。
「あの、これ、いつもありがとな」
『わぁ!綺麗なバラだね!急にどうしたの?』
今日記念日だっけ?と彼は首を傾げた。
「いいだろ何もない日だって、たまには。」
〜たまには〜
今でもたまに思い出す、彼との日々。
俺たちは本当に仲が良かった。
まさか、こんな形になるなんて
思ってもいなかったけど。
かつて友達と呼んでいた彼。
彼は今───
「どしたの、ぼーっとして」
『んーん。なんでも』
不意に声をかけられはっとする。
"彼"というのは紛れもない、目の前にいるコイツだ。
僕らの関係は今でも続いている。
友達としてではなく、恋人として。
〜過ぎた日を想う〜
『…お前、本当は俺の事好きじゃないだろ』
恋人が待つ家に帰り、真っ先に飛び込んできた言葉。
俺は思わず言葉を失った。
そう言い放った彼の目は怒っているようで、
どこか寂しげで。
『最近俺以外の奴とずっと一緒じゃんかお前』
戸惑う俺なんてお構い無しに続ける。
確かにここ最近、
俺だけ友達と遊びに行ってしまうことが続いてた。
…と言っても、家に帰ればずっと一緒なのだけど。
そんな言葉は、生唾と一緒に飲み込んで。
「ごめん。俺が悪かったよ。でも、俺が好きなのは
お前だけだよ」
『…そういうことじゃない』
そう言うと彼は自室に籠ってしまった。
静寂に包まれた部屋に、俺だけが取り残された。
頭が真っ白になった。
大好きな彼に嫌われてしまった。
俺のせいで。俺が自分勝手だったばかりに。
不意にスマホが鳴る。
画面に目を落とせば彼からのメッセージ。
時計を見ればもう何十分も経過していた。
画面にはこう書かれていた。
『ごめん。さすがに言いすぎた』
〜静寂に包まれた部屋〜
「俺ね、お前と2人でここ、来たかったんだ。」
ビルの屋上。
涼しい風が頬を撫でる。
無数の人工的な光をぼんやりと見下ろしていた。
隣で景色を眺める彼の手をそっと握る。
ただ何となく、くっついていたかったから。
『今日はありがとな。お前と一緒に居れて、すげぇ楽しかった。』
「んふふ。こちらこそ。」
俺を捉える瞳がなんだか愛おしくて、
ほっぺたにちゅっと唇をつけた。
『なっ…///おまっ…ちょっ…///』
咄嗟に頬を触り、
耳まで真っ赤に染まる彼。
「誰もいないんだから良いでしょ。」
『…っ、そういう問題じゃなくて、俺にも、心の準備とか、あるんだよ、』
焦ってる姿も可愛い。
こんなにも大好きな彼を、
他の誰のものにもしたくなくて。
今度はゆっくり、正面から唇と唇を合わせた。
〜夜景〜