【鐘の音】
午前8時15分
平和を願い鳴らされる鐘の音
今年もTV中継を見ながら黙祷を捧げる
世界が平和になりますようにーー。
【お祭り】
夕方でもじっとりと汗ばむ背中に
不快感を募らせながら、新しく買った浴衣に袖を通す。
少し大人っぽい柄を選んだが彼は喜んでくれるだろうか。
髪を整え、メイクをし待ち合わせ場所に向かう。
近所のお祭りに行くだけなのに
こんなにもワクワクするのは、何年ぶりだろう。
彼氏ができて初めて行くお祭りというのもあって、
少し浮かれているのかもしれない。
待ち合わせ場所に着くと彼はスマホを
いじりながらたまに周りを見渡していた。
人混みが凄くて彼になかなか近づけない。
誰かと肩がぶつかりよろけそうになる。
あまりの人の多さにため息をつくと
ふと、近くに来ていた彼と目が合い
私の手を引いて人が少ない端の方に誘導してくれた。
「ごめんね。遅くなって」
「いや、俺もさっき着いたばかりだったから大丈夫
それよりもさっきは大丈夫?怪我とかしてない?」
「よろけただけだったし、肩もそんなに痛くないから大丈夫だよ。心配してくれてありがとう」
「それならよかった。あの…浴衣姿、凄く可愛いね。
キミによく似合ってる」
照れ笑いしながら言う彼に私も恥ずかしくなって、
小さい声で「ありがとう」しか言えなかったけど
浴衣姿を彼に喜んでもらえてとても嬉しかった。
「じゃあ、遅くなったけどお祭り会場に行こうか」
そう言って手を差し出す彼はいつもよりキラキラしていて
まるでお伽話にでてくる王子様みたいにカッコよかった。
【神様が舞い降りてきて、こう言った。】
神社にお参りに行った日の夜。
夢の中に神様が舞い降りてきて、こう言った。
『お主は、ほんに幼い頃から変わらぬのぅ。
成人を迎えた祝いじゃ。これを受け取れ』
懐から紅色の手鏡を取り出し私に手渡す。
『この手鏡を肌身離さず持ち歩け。
お主を悪きモノから守ってくれるだろう。』
神様が去っていき、ふと目覚めるとすでに朝だった。
そういえば貰った手鏡は……
周りを見渡すとスマホの横に
夢に出てきた手鏡が置いてあった。
紅色の手鏡で後ろに桜の花が描かれている。
夢じゃなかったんだ……
この手鏡を肌身離さず持ち歩くんだよね?
とりあえず忘れないうちに鞄に入れとこう。
◆◆◆◆◆◆
こうして、手鏡を持ち歩いて1ヶ月。
特に変わった事も無いまま、日常を過ごしてきて
私も気が緩んでいたのかもしれない。
会社の帰り道にまさかあんな目に遭うなんて
今の私には知る由もなかった。
【誰かのためになるならば】
「今、この瞬間も苦しんでいる誰かのためになるならば
私は喜んでこの身を神に捧げましょう」
微笑んだまま口上を述べそのまま湖に身を投げる。
それが産まれた時から定められている私の運命。
聖女の証が額に現れ神の信託を授かった私は、
神殿で聖女となるべく教育を受けた。
本当は私だって同世代の子と外で遊んだり、
お喋りをしたりしてみたかった。
でも、生まれながらに聖女として育てられた私には
自由などなく、聖力を高めるために禊や祈りに励む毎日。
私は一体、何のために産まれてきたのだろう。
この国を豊かにし、貧窮している民を救うため?
それとも、民の間で流行っている病を無くすため?
私、1人の犠牲で一体何人の民が助かると言うのだろうか。
『誰かのためになるならば』
なんて私にとっては呪いの言葉でしかないのにーー。
【友情】
「裕也〜お前、彼女と別れたんだって〜?」
教室の机に突っ伏しながら、スマホを眺めていた俺に
ニヤニヤしながら近づいてくるのは幼馴染の涼介。
学校一のモテ男だ。
「……何でお前がそんな事知ってんだよ」
「え?そんなん、お前の元カノがお前と別れたーって
言いながら俺に擦り寄ってきたからだけど⁇」
「 はぁーー……またこのパターンか……」
スマホから目を離し、机に突っ伏す。
俺と涼介が幼馴染だと知った女子が、
俺を踏み台にして涼介に近付こうとする。
昔から繰り返えされてきた、
このパターンにいい加減俺も慣れきっていた。
最初は俺を見てくれる女子も、
涼介に会わせると人が変わったように本性を表す。
俺にはつくづく運がないのかもしれない。
「まー災難だったなとしか言えないけど、
これでまた一緒に帰れるんだろ?帰りにゲーセン寄らね??」
突っ伏した俺の頭を突きながら笑うコイツは、
俺が彼女と別れると毎回こうして慰めにくる。
涼介の笑顔を見ると何だか全部馬鹿馬鹿しく思えて
「しょうがねーな」なんて、
俺も笑いながら涼介に応えた。