寂れたバス停でキスをした。
さんさんと光る青空の元、触れるだけのキスをした。
カサついた唇の彼女にそっとリップクリームを塗ってやる。少しよれてしまったので謝りながらまたキスをする。
鮮やかな向日葵がこちらを覗き込んでくる。
彼女の髪の毛が風に揺れ顔に掛かった。そっとよけて彼女の目を開かせる。
私しか見えないその瞳孔は、まるでコーヒーのように黒々として。
私しか映してない。
その事実に笑みを浮かべる。
もう私だけのもの、あんな男なんかに渡さない。
私の可愛い可愛い、優しい妹。
汚らわしい、あんな男に。
彼女の顔を撫でる。
ベタベタとまるで精液のように纏わりついた、あの男の醜い残骸を拭うように。
蝉が鳴く。そろそろバスが来る頃だ。
もう動かない彼女の唇は私の願う言葉しか吐かないだろう。
「しょうがないわね、お姉ちゃん」
ああなんて優しい妹なの。もう一度抱きしめ、木箱に彼女を入れる。
海に行きましょう。ここは山ばかりだから、私海が見てみたかったの。貴方も同意してくれるわよね。
抱えた木箱に頬擦りをする。
カタン、同意の音がした。
勿忘草色の髪の彼女が僕の脳裏に焼き付いている。
産まれる前の記憶だ。
まるで忘れないでとでも言うように鮮やかに残る彼女は、結局大人になっても会えてやしない。
「一体誰なんだろう?」
会いたい、そう思いながらも僕は別の女性に恋をして、結婚をし、子供が出来た。
「ねぇ、お父さん。せっかく大学生になったから髪染めてみたの」
僕の部屋の扉を開けた音を聞いて振り返った瞬間、勿忘草色が広がった。
「……お前だったのか」
「忘れないでって言ったでしょ?」
鮮やかな勿忘草は、あの時よりずっと愛おしく忘れがたかった。
長い長い、終わりのないように思える旅だった。
1番最初はただひたすら楽しかった。見るもの全てが新鮮で、何もかも知らなくて全てに興味を持った。
しばらく経つと悩みが生まれた。このままで良いのか、不安に苛まれた。苦しくて終わらせたくなることも多々あった。
それを乗り越えた頃、君に出会った。君といるととても楽しくて幸せで、旅をする楽しさを思い出せた。君に出会う為にこの旅を始めたんじゃないかと思うほど君に魅了された。
君と旅を続けてだんだん、こ慣れてきた。不安も減って、君がそばにいるのが当たり前になった。
君が旅をやめた。突然だった。何が何だかわからないまま君は僕の前から姿を消した。今考えても理由はわからない。君がいなくなったのが辛くて悲しくて、僕も旅をやめようかと思った。
けれど旅をやめることは出来なかった。君にまだ続けて欲しいと言われていたから。僕だけをおいて止めるなんて酷いじゃないかと思った時もあったけど、君が泣きそうに言うからやめられなかった。
でも、僕も旅を終える時が来た。そろそろ良いだろう?君の笑顔が見えて、僕は寝転んだまま旅を終えた。
「ご臨終です。」