勿忘草色の髪の彼女が僕の脳裏に焼き付いている。
産まれる前の記憶だ。
まるで忘れないでとでも言うように鮮やかに残る彼女は、結局大人になっても会えてやしない。
「一体誰なんだろう?」
会いたい、そう思いながらも僕は別の女性に恋をして、結婚をし、子供が出来た。
「ねぇ、お父さん。せっかく大学生になったから髪染めてみたの」
僕の部屋の扉を開けた音を聞いて振り返った瞬間、勿忘草色が広がった。
「……お前だったのか」
「忘れないでって言ったでしょ?」
鮮やかな勿忘草は、あの時よりずっと愛おしく忘れがたかった。
2/2/2023, 12:30:28 PM