サクサク、サクサク。
軽い音を立てながら歩く。
童心は無くしてしまったと思っていたけど、こうして落ち葉だらけの道の真ん中を歩きたくなるくらいには、私の心には幼い部分が残っているらしい。
サクサク、サクサク。
赤と黄色に染まった道が、なんだか楽しい。
『落ち葉の道』
出掛ける直前、玄関を閉めようとして気がつく。
鍵が無い。
慌てていつもの置き場所を探したり、無意識でしまったのかもと期待を込めてカバンをひっくり返したり、もしかして酔っ払って変なところに…なんて思いついて冷蔵庫の中を漁ったり。
しかし、どこにも無い。
刻一刻と時は過ぎて、余裕を持っていたはずの出発時間が、目前に迫っている。
けど、無いものは無い。
落ち着いてもう一度探そうと、鍵探しでしっちゃかめっちゃかの室内を振り返る。
ちゃりん、という金属のぶつかる音。
音の方向をバッと見れば、気まずそうに目を逸らす君がいた。
その足元には、探しに探したこの家の鍵。
「…このいたずらっ子め!」
追いかけるフリをすると、気まずそうながらもちょっとだけ嬉しそうに逃げ出す君。
チラチラとこっちの顔色を伺いながら、どこまで追いかけてくれるのかと距離を測っている。
その隙に鍵を拾い上げ、急いで玄関に向かう。
私が方向転換するとは思っていなかったらしく、ポカーンとした顔で立ち止まっていた。
「行ってきます!」
帰ってきたらたくさん遊ぼうね、と、声をかけながら鍵を閉める。
『君が隠した鍵』
帰宅した私に待っていたのは、「おかえり!」の熱烈な歓迎でも、「いなくなっちゃうのが悪いんだい!」という寂しさからの破壊行為でもなく…。
「あっそ、帰ってきたんだ、ふーん」という、不貞寝の形を取った無視だった。
ちょうどこの間、時計を手放した。
あんまりカチコチうるさくて、我慢の限界が来たのだ。
家中の時計をすべて手放したのだが、驚いたことに隣の家でも私と同じことをしていた。
「やあ、あなたもでしたか」
「いやはや、恥ずかしいところを見られてしまいましたな。実は最近、うるさく感じて…」
そんな雑談をしながら、時計の入ったゴミ袋をぽいと放り投げる。
ふう、すっきりした。
『手放した時間』
時計を手放してからどれくらい経っただろうか。
一週間、一ヶ月、一年以上?
もはや正しい時間はわからない。
私とお隣さんが時計を手放したあの日、なんと世界中の人間が同じ行動を取っていたのだ。
あの日以来、私たちの生活は一変した。
テレビはさっぱり映らず、スマートフォンにはなんの通知も届かず、ラジオは常にノイズばかり。
そればかりか、誰も彼もが時間通りに働くことを止め、日がな一日ぐうたらするようになってしまった。
当然、主要なライフラインは壊滅状態、今生きていられるのが不思議なくらいに衰退してしまった。
しかし誰もなんとかしようとしない。
なぜなら、人間は時間を手放したから。
なんとかしようと立ち上がれば、それはすなわち再び時間に追われる世界に戻ってしまう…そんなのは嫌だと言う空気が、人類全体に行き渡っている。
こんなことを考えている私も、実はとろとろと眠くなっている。
あんなに追われていた時間から解放されたというのに、私はやりたいことの一つも無かったらしい。
ああ、前はあんなにあれをやりたい、これをしたいと考えていたはずなのに。
べに、あか、くれない。
どう読むのかはさておき。
あかと言えば、あかべこカラーな特別ユニフォーム。
次の機会なんて言わずに、買っておけばよかったなぁ。
『紅の記憶』
なぜか夢に出てきたあの人。
特になんとも思っていない、はずなのだが。
なぜが夢の中では非常に仲が良く、さらにさらに、なぜか恋人のように振る舞っていた。
なぜかは知らない。
なぜかは知らないのだが、いざ会うと変に緊張してしまう…。
たかが夢。されど夢。
夢の中の出来事が現実に影響を与えたり、与えなかったり…。
『夢の断片』