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出掛ける直前、玄関を閉めようとして気がつく。

鍵が無い。

慌てていつもの置き場所を探したり、無意識でしまったのかもと期待を込めてカバンをひっくり返したり、もしかして酔っ払って変なところに…なんて思いついて冷蔵庫の中を漁ったり。
しかし、どこにも無い。
刻一刻と時は過ぎて、余裕を持っていたはずの出発時間が、目前に迫っている。

けど、無いものは無い。

落ち着いてもう一度探そうと、鍵探しでしっちゃかめっちゃかの室内を振り返る。
ちゃりん、という金属のぶつかる音。
音の方向をバッと見れば、気まずそうに目を逸らす君がいた。
その足元には、探しに探したこの家の鍵。

「…このいたずらっ子め!」

追いかけるフリをすると、気まずそうながらもちょっとだけ嬉しそうに逃げ出す君。
チラチラとこっちの顔色を伺いながら、どこまで追いかけてくれるのかと距離を測っている。
その隙に鍵を拾い上げ、急いで玄関に向かう。
私が方向転換するとは思っていなかったらしく、ポカーンとした顔で立ち止まっていた。

「行ってきます!」

帰ってきたらたくさん遊ぼうね、と、声をかけながら鍵を閉める。

『君が隠した鍵』

帰宅した私に待っていたのは、「おかえり!」の熱烈な歓迎でも、「いなくなっちゃうのが悪いんだい!」という寂しさからの破壊行為でもなく…。

「あっそ、帰ってきたんだ、ふーん」という、不貞寝の形を取った無視だった。

11/24/2025, 12:48:31 PM