一日の終わりに、優しくそっと包みこんでくれる
温かい抱擁に心がほっと安心する
朝が来るまでこうして守ってあげるよ、なんてキザな台詞を恥ずかしげもなく言える彼はすごい
そして実際、彼に抱きしめられている間の安心感は本当にすごい
もうずっとこのままいられたらいいのに…
しかし、二人を引き裂くようにアラームが鳴り響く
朝だ起きろと電子音が激しく主張してくる
おかしい、まだ夜のはず…私は彼と眠りについたばかりなのに…
それでもカーテンの隙間からは光が漏れ、時計はどうしようもなく朝を指し示している
うう、この温もりから離れたくない…布団の中から出たくない…!
アラームを止め、二度寝の誘惑に飲み込まれながら、
「このまま時間が止まればいいのになぁ…」
と、まずあり得ることのない願いで胸をいっぱいにした
『時を止めて』
先週、ちょっと北のほうへ旅行に行った。
そしたらどこからか甘い香りが漂ってくる。
スイーツとはまた違った、しかし確実に記憶に刻まれている香り。
はて、これはなんの香りだったか…。
歩きながら考えていると、突然眼の前に答えが現れた。
なるほど、まだこっちじゃキンモクセイが咲いていたのか。
『キンモクセイ』
余談ですが、ギンモクセイも甘くて良い香りがしました。
流れ星は少女の元から飛び去ってしまいました。
一緒に見た夕日も、
一緒に探した四つ葉も、
一緒に語り合った夜も、
ぜんぶぜんぶ放り投げて、真っ暗な空へ飛び込んでいきました。
「行かないで、行かないで、お願いよ」
少女が必死に叫びます。
もう手が届かないほど高く飛び上がってしまった流れ星に向かって、少女が何度も呼びかけます。
けれど流れ星は止まりません。
命を賭した輝きをまとって、真っ暗な空を駈け上がります。
少女がもうこれ以上迷子にならないように、星の無い空を見上げて泣いてしまうことがないように、そんな祈りを込めながら懸命に走ります。
「お願い、お願いよ、お願いだから行かないで」
だから、少女の言葉は届きません。
もう二度と、少女の願いは叶いません。
おしまい。
『行かないでと、願ったのに』
あのこの好きなキャンディーの空箱
あのこの好きなチョコレートの包装紙
あのこのお気に入りのぬいぐるみの首のリボン
あのこが初めてのお小遣いで買ったヘアクリップ
あのこが使っていた鉛筆の折れた芯
あのこが友達と交換して持っていた匂い付き消しゴムの欠片
あのこがよく眺めていたSNSのアカウント
あのこがよく聞いていたアーティストのCDジャケット
あのこが流行に流されて手に入れたキーホルダー
あのこが親と口論になったときに流した涙を吸い込んだ枕
『秘密の標本』
時間はかかったけどぜんぶそろった
あとはあのこだけ
朝一番に窓を開ける
まだどこか眠気が漂う室内に冷気を取り込んで、緩んだ気持ちを吹き飛ばす
しんと冷え切った空気に、自然と背筋が伸びる
心なしか鳥の鳴き声も張り詰めたような響き
冬の朝がやってきた
『凍える朝』
ついこの間まで半袖で過ごしていたのに…