大丈夫
大丈夫だから
もういいよ
もういいって
うるさい
ほっといてよ
関わるなよ
もういいから
「良いわけないだろ、そんな顔して言われても説得力皆無だよ」
どうして
「お前が泣いていたから」
「どうして……」
「その理由を聞くまで、俺はここを離れない」
「も……うざいよ……」
「ははっ、悪かったな」
涙の理由(わけ)
えんじょーい
音楽はなり続ける
いんじょーい
届けたい胸の鼓動……
「やっぱ盛り上がるならこの曲っしょ!」
友達数名とカラオケに来た
今日は特に記念日という訳でもないが、そういう気分だと一人が言い出し、イツメンの3人が集まった。
「好きだねーその曲」
nobodyknows+のココロオドルを最初に歌うのがこの3人カラオケの定番になっている
今回もまたこの曲が最初であった
「これが一番最初にバチッと盛り上がれんのよ!お前らも合いの手入れろよ〜!」
長いラップパートを歌いながら器用に喋りかけてくる
「器用だなこいつ」
「ほんとにね〜」
歌っていない2人はリズムに乗りながら歌い手を見ている
「そういや、面接落ちたわ」
「えっマジ〜?」
突然なことを言いだした
普段から真面目なタイプに見えるため、嘘ではないようだ
「え、え〜まじかぁ、なんで今??」
「……いや、」
ここで曲がラスサビに入った
えんじょーい
音楽はなり続ける
いんじょーい
届けたい胸の鼓動
「なんか、今なら言える気がして」
「そ〜でっか」
適当に返事をしてドアすぐ横の壁掛け電話の方に歩き出す
かなり長い時間電話をかけ、戻ってきた
「ま、今だけは曲にノって忘れよ〜」
「ん……、そうだな」
ココロオドル
嗚呼、忙しい
休む暇もありやしない
社会人として働き始めてからはや12年
とある会社員として地位もそこそこに、安定した生活を送っている
しかし今、私を襲うのは大勢の新人導入をした事による教育係の不足。私もその教育係の1人として今日も駆り出される、だが人数が足りない。
私は東奔西走させられ、毎日元の部署から出張、出張、出張。帰るのはいつも11時を過ぎる
「残業代あるだけマシか……」
そう言い聞かせ今日も夜道を歩く
10月上旬、外はだんだん肌寒くなっている
いつまでこの生活が続くのだろう
教育係だからと言え自分にも仕事は来る、それを捌きながらと言うのだから酷なものだ
自然とため息が出る
……
ふと、目の前に駄菓子屋が見えた
「まだやってたんだ、ここ」
昔、まだ私が幼い頃からあるこの駄菓子屋は、穏やかな老夫婦が営んでいる
「……お菓子、買おうかな」
日々の疲れによるものなのか、無性に何かに縋りたい
駄菓子屋というものはだいたい、夜の8時には閉まるイメージがあったが、今日はまだ開いているようだ
暖簾(のれん)を潜り中に入る
「あら、いらっしゃい、」
小さい頃に見たおばあちゃん、今となってはもう顔がしわくちゃになっている
「こんばんは…、」
軽く会釈を返す。
さすがに覚えているはずもないだろう、子供から大人への変わり方というものは絶大だ、顔も身長も洋服も何もかもが変わっている
何か食べたいものはないか探してみる、すると
「今日はね、本当は8時で閉めるつもりだったんだけど、なんだかね」
突然おばあちゃんが喋り始めた
「なんだか、誰かがお菓子を買いに来るような気がして、開けておいたの」
微笑みながらそう呟いた
「そうしたら、えみちゃんが来たの、開けておいてよかったわ、最近はどう?」
ゆったりとしたテンポでおばあちゃんは話した
えみ、恵美、佐々木恵美。私の事だ
私の名前を呼んだ、呼んで話を続けている
「おばあ、ちゃん、私…私ね、」
懐かしい空気に包まれて涙が出そうだ
今までの苦労が全て浄化されそうだ
子供の頃に戻った様に、好きだったお菓子をカゴいっぱいに入れて、レジにいるおばあちゃんの元へ向かった。
「ねぇ、おばあちゃん、私、お話したいの…」
誰かに話を聞いて欲しい
「ここ、座ってもいい?」
いつかの日も、ここに訪れては今日あったことを話した
あの頃は、楽しかった
あの頃は、悩みなんてなかった
あの頃……のように
「もちろん、お茶も持ってきてあげるから、待っておいてね、お菓子もあげようね」
嗚呼、忙しい、休む暇もありやしない
けれどそんな日々の中
こんな束の間の休息が
私をまた1つ、大人にしてくれる
束の間の休息
ある日おばあちゃんに貰ったもの
いつしかタンスの中に入れて忘れていた。
「たしかこの辺に…、あ、あった」
もうそこは、要らないもの置き場になっていたけれど、突然思い出した。
「綺麗…、もう10年は経ってるはずなのに」
いつもお守りにして持ち歩いていた。
学校に行く時も、遊びに行く時も、ご飯を食べる時も、寝る時も、肌身離さず
けれどある日実家のタンスに入れたまま、時が経ち、いつしか忘れていた
「どうやってたっけぇ…」
記憶を掘り起こしながら、昔やっていたことをもう一度再現してみる
「おばあちゃん、明日も元気でいてね」
そう言い、ソレを握った手に力を込める
昔からやっているこの行動に大して意味は無い
けれど、なんだか、
「少し…気持ちが楽になったかも…ね」
仏壇から笑顔でこちらを見ている祖母を見て、
自然と涙がこぼれてきた
片付けをしようと実家に戻ったが、様々な思い出で頭がいっぱいになってその場に座り込んだ
「ずっと、大切に持っててくれたんだね…」
もう一度、手に力を込めた
生前、祖母がくれた綺麗なペンダントに
力を込めて