夢
もう割り切ったと思ってたわ。
けれども、夢で現れた王子様は、幻みたいに消えちゃいそうだった。夢だものしかないよね。
夢の中の私は必死で貴方が消えてしまわないように、ずっとここにいられるように、頑張ってた。
だけど、結局最後にプールみたいなところに落ちたの。
足がつくほどの深さだと思っていたのに、落ちると深くて、奇妙な魚が私を襲ってきた。
溺れそうになりながら、もがいた。
やっと上に上がれそうなところで、王子様が手を差し伸べてくれた。
嬉しかった。
とっくに消えてしまったかと思っていた。
引き上げてもらったのと同時に夢から覚めてしまった。
どうして貴方はまた、私の夢に出てくるの?
落とし穴
落ちたらだめ。
嫉妬や欲望の穴に落ちたら、あとは少しずつ心臓が傷んで、蝕まれる感情に壊れるだけ。
そのうち、自分の心がどこにあるのか分からなくなってどうでも良くなってしまう。
日が沈むごとに気分も沈みこんで、朝日が昇るのが目に映る。
ゆらゆら日々生きるだけで、ブランコに乗ったように酔う。
深い穴に落ちたなら、誰か一人のちからでは引き上げられない。たくさんの人に助けてと言わなければならない。
落ちたところが深すぎたら気づいてもらうのだって難しい。
落ちた先に針がびっしり敷かれて、落ちたと同時に串刺しになるかも。
落ちた先に大きな怪獣が住んで襲ってくるかも。
落ちた先にたくさんの宝が眠っているかも。
でもきっと、穴の外に出られても、無くした心を探すばかりに周りが見えなくなって、ふとしたときまた新たな穴に落ちるのかも。
貴方に似た、あの人。
同じ赤色の本が目の前の棚にあるか、手の届かない高い棚にあるかの違いで。
作者も内容もちがうんだろうけど、私はどちらの本も読んだことがない。
だから、どっちを取ったって順番が変わるだけで、またあとで読めばいいだけ。
それなのに、どうして?
私が順番を間違えただけで、あの人はそこまで私を怒鳴るの?
彼は私がもう片方を読み終えるのを、棚の中で待っていてくれたのに。
でも、もうしかたないから、逃げることにしたの。
貴方の街から遠く離れた海辺の街に。
海は思ったほど綺麗じゃなかった。曇った空と鉛色の海は空をそのまま映したみたいで憎たらしい。
貴方と貴方の子供もそうなんじゃない?
しばらく住んで、ふと思い出した。
あの時私は、高い棚の本を読んでいない。
手に取ろうとしてやめてしまった。
今更思い返すのは心臓にくる。
もうやめてしまいたい。
幸い、夏祭りがあるそうで、小さな心の思い出を思い返した。
いつか誰かと、一度だけ海辺の街の小さな祭りに行ったことがあった。
その祭りで水風船を買ってもらった。
その夜があまりに幸せで、私はもう一生ここにいられたらといいと思った。
この手を握るこの人と結婚したいと思った。
私は何歳だった?その人は誰だったの?
ならば、人生最後、行ってみようかしら。
赤色の貴方がいるかもしれない。
そう思った。屋台で赤色の水風船をあの頃のように、釣り上げた。
そして、赤色の水風船に誓った。
「もし、この水風船がしぼむ前に貴方が迎えに来なければ、水風船とともに、私も海に沈もう」と。
やけに気分のいい夜は、それが最後だと私に言い放つ。
私は貴方を心のなかに、おいて置きすぎたのかもしれない。
心の奥の「私」に一番近いところに。
だから、貴方を特別だと思ったのかな。
とっくにすぐ、捨てられたかもしれないのに、
今でも、貴方は特別だったのよってどこかで聞こえる。
バイト代で、貴方の特別のために出かける予定だったけれど、もう行かないのかな。
私は私の中で崩れる貴方に、妄想と想像の真実を探す。
冷
「殺された」みたい。
という表現が一番しっくりくる。
長い時間が経ったから、あんなふうに思い込んだだけ。
感情が混ざり合っているというなら、それは私にとって大きな波だ。
いったいどこ?
本当の貴方を知らない。
知らないことの愚かさを知ってしまった。
知らないことの幼稚さを知ってしまった。
見て見ぬふりと綺麗な霧は、大切なことまで隠してしまう。
私にとって、一番大切なモノはなに?
私が一番大切であるべきなのに。
もしも本当なら、とっくに貴方に会えたはず。私が悪いから?
いいえ、違う。私は私だった。
酔わないと自分を保てないほど、閉鎖していたんだ。
貴方を見ると、いつからか「殺された」
という感情が浮かんで、懐かしかった。
愛おしかった。悲しかった。怒ってた。
そして最後に、嫌ってた。
それがわかって何になるのかしら。
どこからどこまでもわからなかったから、まあいいか、とだいたいは片付けられてしまいそう。
だけど、だけどだけどどうしたらいいの?
魔法が解けたのかもしれない
男性の私物なんて欲しくない、気味が悪い。
魔法なんてほど綺麗じゃない、呪いって言ったほうがいいくらいよ。
貴方、貴方貴方貴方貴方貴方貴方貴方にずっと心のなかで叫んでた。
でも、今はもっと軽いかもしれない。
まだ手放せない私もいるけどね。