冷
「殺された」みたい。
という表現が一番しっくりくる。
長い時間が経ったから、あんなふうに思い込んだだけ。
感情が混ざり合っているというなら、それは私にとって大きな波だ。
いったいどこ?
本当の貴方を知らない。
知らないことの愚かさを知ってしまった。
知らないことの幼稚さを知ってしまった。
見て見ぬふりと綺麗な霧は、大切なことまで隠してしまう。
私にとって、一番大切なモノはなに?
私が一番大切であるべきなのに。
もしも本当なら、とっくに貴方に会えたはず。私が悪いから?
いいえ、違う。私は私だった。
酔わないと自分を保てないほど、閉鎖していたんだ。
貴方を見ると、いつからか「殺された」
という感情が浮かんで、懐かしかった。
愛おしかった。悲しかった。怒ってた。
そして最後に、嫌ってた。
それがわかって何になるのかしら。
どこからどこまでもわからなかったから、まあいいか、とだいたいは片付けられてしまいそう。
だけど、だけどだけどどうしたらいいの?
魔法が解けたのかもしれない
男性の私物なんて欲しくない、気味が悪い。
魔法なんてほど綺麗じゃない、呪いって言ったほうがいいくらいよ。
貴方、貴方貴方貴方貴方貴方貴方貴方にずっと心のなかで叫んでた。
でも、今はもっと軽いかもしれない。
まだ手放せない私もいるけどね。
ずっと落ち込んでは立ち上がってきたけど、もう冷静にどうしたらいいのかわからなくなっている。
本当はなにがしたいんだろう。なにを求めているのだろう。
なにになりたいんだろう。
小さな世界で、簡単に砕ける希望をどうしたら保っていられるの?私にはそれがないとできないって、最近ようやく気づいた気がする。
ならば、まずそれを見つけることをすべきなのか?
何から始めたらいいかわからない。一番欲しいものはなに?
人を真似て、人をプレッシャーにして、追い詰めて比べて、限界を超えたことがあった。それは崩れ落ちるように最後が失敗だった。
でも今は、人の成功例と自分の成功は別であってほしいと思う。別がいいと思う。縛られた感情や束縛とプレッシャーはもう拒否反応をする体。だから、私にぴったりな「私」を作りたいと思った。見つけたいと思った。
でも、コロコロ変わる気分に疲れて、それもすべて私であると言う私もいる。
そう思いたくない私さえいる。
私はどうなればいい?小さな世界の人々はどれも魅力的じゃない。他人と比べれば、私は私が一番大切だと思える。私は私を愛せると思う。
けれどなぜ?私が私を見つめるとき、私は私をこの世で一番嫌う。
私が私であろうとするとき、私が私を一番否定する。
私の心と体は、水と油みたいで気持ちが悪い。
生きているとき、呼吸をし、食事をし、お風呂に入り、排泄をするとき、汗をかくとき、全てが、水と油を混ぜ合わせた、気持ち悪さが伴う。
生きることが難しいと思ったのはそれだったのか?
今の私の肉体も、ガリガリに骨の浮き出た肉体もどうして気持ちが悪いの?
ねえ、もしも私と貴方、心と肉体がちゃんと二つだったら、二つに別れたら、私は楽になるのかな?
貴方はどうなってしまうのかな。
気が合わないね、私と貴方。
貴方が私をだめにする。肉体が心をだめにする。
埋もれた。私は埋もれているのかな。余計気持ちが悪く思える。
私よ私、早く蛹を脱ぎ捨てて、美しく羽ばたくのよ。
私よ私、今もなお、貴方に邪魔される私。信じることも希望の言葉も怖くなった私よ、もうやめよう?
昼間は草原で、ひらひらと揺れるスカートと舞う蝶に目が回っていた。
夜はろうそくの明かりだけで、貴方がピアノを弾いているその音に、襲われるような嵐のような緊張を感じ、少しずつ力が抜けていく。曖昧な気分になって、なにも見えなくなった。ろうそくの煙には毒でもあるかのように、貴方のピアノは催眠術のようだった。
私はその緊張と恐怖とわくわくと、たった一つ朝も夜も昼も変わらぬ、感情を抱えている。
貴方の恐怖か?甘さか?どんな香水よりも鼻につく、どんなお酒よりも酔いつぶれる、貴方の声。
あるとき、一度抜け出そうとしたことがあったような。
なぜか、猛烈に貴方のピアノにうんざりしていた夜、私は屋敷を飛び出して広い庭を抜け、門の手前まで、鬱陶しいスカートを握りしめて走ったんだった。
けれどあっけなく貴方に手を掴まれた。
そしてその夜は、貴方とダンスを踊った。古い蓄音機の音は今も忘れない。
それと貴方の鼓動とか、息遣い、言葉は思い出せないけれど、音や表情は覚えていた。
貴方の顔、貴方の声、体温、なんだか全て愛おしいと思った。心の底から離せないものが生まれた。
愛している。ただ、愛しているの。
この日記、貴方に読まれるかしら。
今夜貴方は抜け出して、庭を抜け、門の手前まで行くでしょう。
けれど私は止めやしないわ。貴方の手をとれるほど、私は強くはないの。貴方を待っている。
シュワシュワが舌に残って消えてくれない、ソーダが冷蔵庫で凍っていた、貴方の家の小さなキッチン。
今や私の心臓までも凍りつくよ。薄々気づいていたはずだったのに、私は目を閉じた。
つぶったつもりはなかったの、ただ、貴方が私を夢の中へ連れてっちゃうから。
それでも、違ったのかしら、麻薬みたいに私は錯乱していたのかもしれないわ。
ああー、涙の味がどうしてあの冷蔵庫のサイダーの味なの?