昼間は草原で、ひらひらと揺れるスカートと舞う蝶に目が回っていた。
夜はろうそくの明かりだけで、貴方がピアノを弾いているその音に、襲われるような嵐のような緊張を感じ、少しずつ力が抜けていく。曖昧な気分になって、なにも見えなくなった。ろうそくの煙には毒でもあるかのように、貴方のピアノは催眠術のようだった。
私はその緊張と恐怖とわくわくと、たった一つ朝も夜も昼も変わらぬ、感情を抱えている。
貴方の恐怖か?甘さか?どんな香水よりも鼻につく、どんなお酒よりも酔いつぶれる、貴方の声。
あるとき、一度抜け出そうとしたことがあったような。
なぜか、猛烈に貴方のピアノにうんざりしていた夜、私は屋敷を飛び出して広い庭を抜け、門の手前まで、鬱陶しいスカートを握りしめて走ったんだった。
けれどあっけなく貴方に手を掴まれた。
そしてその夜は、貴方とダンスを踊った。古い蓄音機の音は今も忘れない。
それと貴方の鼓動とか、息遣い、言葉は思い出せないけれど、音や表情は覚えていた。
貴方の顔、貴方の声、体温、なんだか全て愛おしいと思った。心の底から離せないものが生まれた。
愛している。ただ、愛しているの。
この日記、貴方に読まれるかしら。
今夜貴方は抜け出して、庭を抜け、門の手前まで行くでしょう。
けれど私は止めやしないわ。貴方の手をとれるほど、私は強くはないの。貴方を待っている。
8/8/2024, 4:28:12 PM