・6『この道の先に』
立ち上がって、この家を出よう。
簡単なことだ。
少しふらつきながら外へ出た。
さっき男が変なことを言っていた気がするけど
良く分からない。
欲がない?とか
一旦役所に戻ろう。
ふと、このまま進めば雷に打たれるのでは?という恐怖が襲った。
【続く】
・5『日差し』
稲光を確かに感じたのに次の瞬間には夏の日差しに戻っていた。急に怖くなった私は廊下で腰を抜かしてしまった。
家主は落ち着いた声で
「貴方はまだ若い。なのに欲がないんだねぇ」と言う
振り返って男を見上げるとさっきより溌剌としているように見える。声もハリがある。
座り込んでしまった自分がひどく情けなく感じる。と、同時にさっきまでペンを握っていた老人をただの変人だと、痴呆も入ってるかもしれないと思い込み礼儀を欠いていたのではないか?という気がしていた。
自分を天気を操れる神様だと言った男を
私は下に見ていたのだ。
【続く】
・4『窓越しに見えるのは』
「赤い糸ですか……私も運命の赤い糸で結ばれた人と早く出会いたいものです。それじゃあ私はこれで」
私は男にそう告げ玄関に向かった。
わざわざ見送ってくれる男が言う
「奪い、与えるのが私の仕事だからね。貴方はまだ若い。奪うことも与える事も不慣れでしょう。しかし経験を積めば少しくらいのワガママもなんとかなるものです」
「そら、外をご覧なさい」
廊下の窓から外を見ると、随分とアヤシイ雲行きになっていた。さっきまであんなに明るかったのに。
その時雷が光った
窓全体が白く光り、家の中が見えなくなるほどだった。
しかし雷鳴はしなかった。
【続く】
・3『赤い糸』
男は一心不乱に、かと思えば慎重かつ丁寧に
切り取った雑誌の1ページに線を描いていた。
天気図のような……
よく見ると女性のグラビアページを切り取りその身体や顔にビッシリと曲線を描いているのだった。
その天気図のようなものに意味はあるのか聞くと
天気の神様の仕事だ、と言う。
天気を操っている、と。
高齢化の進むこの島の島民の安否確認で周っているが
変わった人というのはどこにでもいるものだ。
じゃあ、この島に台風がこないようにお願いしたいですね
と私も応える。
どの紙も黒か青の線だったが右上だけは赤い線が一本ひかれている。
これは?と聞くと
それは赤い糸なのだという。
【続く】
・2『入道雲』
とんと見なくなった入道雲は何処へいったか?
今は私の住処です。
あの人が好きな夏が
もう訪れないよう
遠くに遠くに
あの人の目の届かないところにあります。
閃光あり、雷鳴なし!
私は天気の神様なので
好きにできます。
うらやましいでしょう?
【続く】