私は今日、空に殺される
地上から青いきれいな空を見上げてこう思った。
空から連想されるものは非常に多い。
自由――空は広大で開放的なイメージがあるから。
夢――空は想像力を掻き立てる存在であるから。
平和――青々とした空や穏やかな雲の流れを見ると心が安らぐから。
飛翔――鳥はこの空を自由に飛んでるから。
こんなキーワードから憧れを抱いたのが間違いだったんだ。
空が近づいてくる。私は憧れを抱いたがため罰せられる。
きっと太陽に近づき過ぎたため堕ちたイカロスのように。
「そろそろ、飛びますよー。覚悟は良いですか?」
「いやぁあああああ」
何故私はスカイダイビングに参加したのか?
「もういっていいですよ。この子いつもそうなんで」
いっしょに参加した友人が情け容赦ない宣告をした。
「そうですか? では飛びますよ。 3,2,1――」
「うわぁあああああ」
私は空に落ちた。
結構楽しかったです。
[空を見上げて心に浮かんだこと]
「おめでとうございます。あなたは死んでいました」
目を覚まして早々そんなことを言われて状況を理解できる人間が居たらエスパーに違いない。
ここは病室らしき部屋で、周りには医者か研究者か分からないがたくさんいて、よくわからない機材に繋がれていて、先程の世迷言を言ったのが看護師らしき人物というのは、あたりを見渡してわかった。いろいろと不明瞭なのは窓がなく、やたらと厳重な気がするから。
「おや、記憶がありませんか?」
私は自殺したはずだ。失敗したのか?
「いえ、成功してますよ。あなたが死んだ直後に脳みそを切り取って培養し、別の死体に移し替えました」
この国の倫理観はいつの間にか死んでいたらしい。
「まぁ、何が何でも死にたくないという人はいるんですよ。そのための実験が必要だというわけです」
酷い話だ。
「1ヶ月もすれば退院できますよ。日常生活の記録もほしいので。監視はさせてもらいますが」
そういって鏡で私の顔を写してみせた。
「あなたが死んだ理由に興味はありませんが簡単に調べた限り経済的苦境でしょう。せっかく別人になったんです。金銭の補助はするので、生きていてほしいですね」
知らない顔が写っていた。
あれから半年がたった。この体の持ち主のことを知ってる人がいない土地で暮らしている。不便はない。お金は出るし、月に一回検査に参加すればいいだけだ。
せっかく異常な状況だというのに何もないのだ。
「やっぱり自らアクションを起こさないと人生って退屈なのか」
私が死んだのはただ、退屈だったから。経済的苦境なのも何もする気が起きなかったから。
「病気なのかな……どうでもいいか」
ホームセンターでいろいろと道具を買ってきたがさて、
「今度こそ確実に終わらせないと」
終わりを考えてる時間だけはワクワクしたのだ。
[終わりにしよう]
手を取り合って、いつかきっと■■■■■■■■■■
人は争いを辞められなかった。
5度の世界大戦。放たれた核と、それに類する大量破壊兵器は10万発を超えた。
争いの発端となった資源が埋蔵された場を含め、地上はさまざまな兵器によって汚染され尽くしたため国家は戦争を終了した。
人々は汚染し尽くされた地上を捨て、生活の場を地下に移しつつも地上に残る資源への渇望を諦められずに居た。
戦争してた2大国家とそれに属する国々は手を取り合って地上の除染を進めることにした。このプロジェクトは100年を掛けて少しずつ除染を進めていくものだった。当初は本当に手を取り合えるか不安視されたがプロジェクトは粛々と実行されていった。
本当の意味で全ての国々が協力し合ったのはこの時がきっと始めてだろう。
そして今日、全ての除染が完了する。今は亡き国家元首達の悲願が果たされる。
2大国家の現首脳がプロジェクトの完遂を記念したパーティーでお互いに歩みを進める。手を取り出す。
両者の手には拳銃が握られていた。
手を取り合って、いつかきっとまた殺し合いましょう
[手を取り合って]
銃を片手に笑い、走る。
「ほらほら、逃げろ逃げろ! どこへ行く? どこへ逃げる?」
相手は逃げるしかない。生殺与奪の権利を握る瞬間はとてもいい。
この分野において、最高の優越感を抱くことが出来る。
逃げる相手の足を狙って撃った。当たったが相手は足を止めない。展望台に逃げられる。
舌打ちが出てしまった。建物内だと万一があり得る。しかし時間を与えるほうがまずい。
躊躇したのは一瞬。すぐに突入する。
血痕は階段に伸びていた。すぐに撃てるよう構えながら血痕を追う。
相手はガラス張りの展望デッキに居た。背中を向け動かない。
「観念したか」
ゆっくり近づきながら頭に狙いをつけた。
「死ね――」
引き金を――――
あれ、なんで? 視界が? 赤く? あっ……
画面に5位という表示が出た。
「はい! ということで本日の最終戦は5位という結果に終わってしまいました。というかまじでどこから撃たれたの?」
有名なバトロワゲームで実況プレイをしていたが今日は結局優勝できずに終わってしまった。
コメント欄におつ、お疲れ様、遊びすぎとコメントがボチボチ流れる。
「ロールプレイして他の実況者様方と差別化しようと思ったんですが難しいですね。えっ! さっきあの有名実況者に狙撃されたの?」
コメント欄に登録者数が自分の300倍はある実況者の名前が流れてきた。
「はい、半端な腕でイキってしまい申し訳ありませんでした。精進します。ではお疲れ様でした」
嫉妬で早口になり、すぐに締めの挨拶をしてしまった。配信を切る。
まわりを見てみるとダンボールに遮音材貼っただけの簡素な防音室に、最新のゲームをするには厳しいパソコン。
「はぁ、有名になりてー上手くなりてー金ほしー」
劣等感混じりのため息は誰にも聞かれずに消えていった。
[優越感、劣等感]
これまでずっと死んでいた
「いや、生きてるじゃん」
「まぁ生物的には生きてると云えるだろうね」
極めて真っ当な意見にそう答える。
「でもね、私は観測して貰えなかったら、自分が生きていると答えられる自信がなかった」
それだけ人間関係が希薄だったのだ。
「アピールすればいいじゃん」
「怖かったんだ」
人と関わるのが。観測してもらいたいのに人と関わりたくないという矛盾。
「観測されればいいんでしょ。動画サイトとか小説投稿サイトとか」
「怖かったんだ」
否定されるのが。無視されるのが。
「わがままだ」
「私もそう思う」
「今は生きているの?」
「生きている」
私ははっきりそう答えた。
「貴方のおかげだよ」
ここまで読んでくれた貴方の。
[これまでずっと]